コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第28回 福島県
2005/10/24 20:42
週刊BCN 2005年10月24日vol.1110掲載
地域ごとの境界薄れ競争激化 会津地方は大学発ベンチャーで勢い
■補助金交付でソフト産業育成を加速情報サービス産業の市場区分でみると、福島県は4つに分けることができる。中通りは福島市を中心とした行政や金融といった市場、交通の要衝である郡山市の周辺は流通や製造、いわき市を中心とした浜通りは製造業などと市場の色分けもある。会津地方は伝統的に漆器、地酒などの特産品のほか、富士通の半導体工場により半導体や電子部品産業が発展してきた。最近では県立会津大学の存在が重要になっており、会津大学発のベンチャーが続々と誕生している。
福島県もソフト産業育成のために、02年度から「福島県IT産業リーディングプロジェクト推進事業」などをスタートしている。補助金交付額は02年度が2000万円、以降03年度約1800万円、04年度1200万円と徐々に減ってきたが、「今年度については2600万円を予定している」(橋本智・福島県商工労働部産業創出グループ主査)とし、ソフト産業育成を加速していきたい考えだ。
また、ソフトエンジニアの育成についても「IT産業リトレーニング推進事業」を展開。県内各地でJavaプログラミングやネットワーク管理など、最新のテクノロジーに対応した技術者育成を図っている。今年度については高度IT人材育成事業として再構築を図っており、セキュリティ分野などを含めた講座を県内6か所で行っている。
「零細な地元ソフト産業では、なかなかスキル向上まで投資できない。技術の底上げを図る必要がある」(同)というのが、この講座の主旨。「県内企業の従業員が参加しており、定着率も高い」(同)と順調な成果を収めているようだ。そのほかにも、SOHO支援事業、インキュベートルーム運営事業、エンジェル助成事業などITベンチャー支援でも手厚い。ただ、こうした予算措置を講じられるのも、福島が原発立地県であるための電源立地交付金を受けられるという点が他県とは異なるところだ。
県内の情報サービス市場について橋本主査は、「やはり福島、郡山、いわき、会津若松の4市を中心とした地域で市場が分かれている」のが福島の特徴だと言う。いわき市の場合、「工場団地を作ればすぐに埋まる」(橋本主査)というほど首都圏からの工場進出が盛んだ。 「かつては4地域でそれぞれ中心となるSIがあって、お互いを侵食しないような暗黙の了解があった」と語るのは、福島市に本社がある福島県中央計算センターの齋藤幸夫社長。同社がこれまで、自治体向けなど公共関連事業が売上高の9割以上を占めるほど公共依存のビジネスモデルを保てたのもそのせいだ。
しかし、「今では縄張り意識も薄まり県内全体での競争が激しくなっている」(齋藤社長)という。自治体が随意契約による発注をやめ、プロポーザルに切り替えていることが他の地域からの参入を容易にしている要因だとしている。同社は市町村合併案件で、来年1月1日に予定される伊達町など5町が合併して誕生する「伊達市」の統合システムを受注。「12月末まで追い込みで開発を続けている」(同)最中だ。
■独自ビジネスで県外に市場求める
郡山市に本社を置く福島情報処理センター(FIC)は、合併案件に対しても独自の分散型総合行政情報システム「FICS-21」の合併版を開発し、プロジェクト受注を図ってきた。「(合併プロジェクトで)忙しい時には、NECからの上級システムエンジニア(SE)を派遣して欲しいというような要請にも全く応えられなかった」と植杉稔・営業推進部部長は語る。自社パッケージを活用することで特色を出した提案が可能だったという。FICも、「自治体が売上比率の7割を占める。民間は3割」(植杉部長)と公共が主体。今後、「アウトソーシングビジネスを強化していく」(同)ことを狙っている。
自社開発製品で市場開拓を狙っているのはアイベクス(郡山市)。オリジナルのシンクライアントシステムを開発し、売り込みをかけている。同社が開発した「VSR(バーチャルセキュリティルーム)」は、シンクライアントシステムの欠点である端末の立ち上げ時間を大幅に短縮したシステム。「作業用サーバーと端末の間にVSRコントロールサーバーを置く。このサーバーはクライアントの管理を行う機能だけを持つ」(今泉清水代表取締役)というのがミソ。これにより「起動速度をわずか30秒に短縮できる」(同)という。セキュリティ対策でシンクライアントシステムを採用する企業や自治体が増えてきたが、その使いにくさの一面を解消できることをアピールしている。近くベンダーと代理店契約を交わすことになっており、本格的な販売を開始する予定だ。
福島県の中でも新興勢力となるのが、93年に日本初のコンピュータ専門大学として開学した県立会津大学発のITベンチャー。同大の教官や学生が起こした企業は、すでに20社近い。卒業生が会津若松市をベースに起業するので、地元定着率も高い。こうした大学発ベンチャーへのビジネス支援を行うため、会津若松市や会津若松商工会議所、地元の信用金庫、地銀などが出資して98年に「会津リエゾンオフィス」を設立した。
会津若松市の職員から転じた吉田孝・取締役常務執行役員は、会津リエゾンオフィスの特色は、ボランティア的な起業支援ではなく、「成功報酬を受け取るビジネス」に重点を置いていることだという。ベンチャーが公的補助金を受けることを手伝い、成功報酬が売り上げになる。だから、「到底無理な場合は、いくら希望してもあきらめさせるようなアドバイスもする」(吉田取締役)と厳しい面も見せるという。
昔からの地域別の市場形成が薄れ、地元IT企業の競争が激しくなっている。さらに、会津若松市を中心にITベンチャーも続々と誕生している。東北地方のある県のIT業界関係者は、「福島県のIT企業は東北を見ずに、東京を見ている」と語る。福島県内の地元企業もそれを否定しない。
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