経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策
<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>10.明豊ファシリティワークス
2005/10/10 20:29
週刊BCN 2005年10月10日vol.1108掲載
調達価格を顧客へ開示
オフィスの新設や改装には、顧客がどのようなオフィスを求めているのかを明確にするコンサルティングや、具体的な設計・デザインなどの上流工程に続き、オフィス家具の調達や専門工事業者によるITや電気設備、内装の施工サービスなどさまざまな工程がある。従来は元請けが顧客の要望を取りまとめ、必要な資材やサービスを業者やメーカーから調達して納品するゼネコン方式が主流だった。元請けは業者やメーカーから調達した商材の上にマージンを上乗せして販売していたため、コンサルティングや設計・デザインなどの上流工程で多少の赤字が出ても穴埋めできる余地があった。しかし、この方式ではメーカーや専門業者から調達した価格は顧客に非公開であるため、元請けがいくらで仕入れたのかは明らかにされないという欠点がある。元請けは、より粗利率の高い商品を売ろうとする心理が働くため、結果として「売りたいものを売る」ことにつながりやすい。口頭で顧客本位と言っても、これを実証するものが何もないのが実情で、顧客が「儲け過ぎでは」と疑心暗鬼になるのも当然だった。
明豊ファシリティワークスでは、顧客本位を明確化する手法として2000年頃から調達価格を顧客に開示し、自らは設計や施工管理など上流工程のサービス料を核として売り上げを立てる建設サービス料主体の「フィービジネス」への移行に着手した。入札で外部からの調達を行い、その内容は顧客に開示して、どの業者から調達するかは顧客に選んでもらう。顧客が独自に調達しても構わないが、複数のメーカーや業者を競わせる入札を行った方が、調達コストが下がるケースが多いという。
外部からの調達価格が下がるなどしたため、フィービジネスへの転換を始めてからの売上高はほぼ横這いに落ち着いたが、純利益ベースでは昨年度(05年3月期)で3期連続増益を達成するなど収益力は飛躍的に向上した。今年度(06年3月期)も、顧客の立場に立った透明性の高いフィービジネスへの取り組みが評価され、大型案件の受注が相次いでいる。
フィービジネスは上流工程の部分のみがメインの収益源となる。ここで赤字を出せば、即刻プロジェクト全体の赤字に陥るため、プロジェクト管理や原価管理を大幅に強化する必要があった。このため、設計デザインやIT、電気、空調、内装、コンサルタントなどプロジェクトに関わるすべての社員が10分単位で、今、自分がどのような作業を行っているのかを情報共有システムに入力する仕組みをつくった。
例えば、デザイナーなら「A社のこの部分のデザインを行っている」、コンサルタントなら「B社への提案書を作成している」など具体的な作業内容を記録する。担当者は、それぞれの専門分野の習熟度や実績などに応じて6段階に格付けされており、この格付けと連動した時間あたりの単価と作業時間を掛け合わせれば原価が導き出される仕組みだ。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のグループウェア「ノーツ」上に独自の原価管理システム「マンアワーコスト管理システム」を開発して実現した。
ポイントは、プロジェクトを管理するマネージャーが、原価情報をリアルタイムに把握できる点にある。プロジェクトを立ち上げる時、参加メンバーが「このプロジェクト内容なら何時間あればできる」などと自己申告する。例えば、デザインなら100時間、IT設備のマネジメントは50時間などという具合だ。申告された時間数と申告者のスキルレベルを掛け合わせて原価を導き、これに適正な利益を上乗せして見積書を顧客へ提出する。作業工程の進捗は毎日管理し、担当者が申告した作業時間の予定範囲に収まっているかどうかを把握する。
作業時間が予定より上回るようだったらプロジェクトマネージャーがすぐに担当者から事情を聞き、原因究明に努める。見積もりで決めた原価を上回りそうになったと同時に修正をかけられるため、赤字プロジェクトは激減した。
仮にデザイン作業が遅れそうな時は、デザイナーのデザイン力が顧客の要望に及んでいないのか、あるいは顧客がデザインを決められずに返答を出せずにいるのかを、双方からヒアリングして原因を突き止める。デザイナーの力不足なら上級のデザイナーがフォローし、顧客の側に原因があり、なおかつ改善が見られないケースでは追加料金を請求することもあり得る。フィービジネスはその名の通り「フィーだけが唯一の収入源」(坂田社長)であるため、契約後のフィーの値引きにも応じないだけでなく、顧客側に原因が認められる場合は追加料金の請求も視野に入れる徹底ぶりだ。
明豊ファシリティワークスの取り組みは、赤字プロジェクトで悩むIT業界のシステムインテグレータ(SI)にとっても参考になる。ハードウェアやパッケージソフトなど外部から調達する商材の利幅が縮小傾向にあるなか、本業である設計コンサルティングやシステム開発で十分な利益を出す仕組みとして、同社の原価管理の考え方はSIビジネスにも応用できそうだ。(安藤章司)
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