e-Japanのあした 2005
<e-Japanのあした 2005>54.情報家電ネットワーク化構想
2005/10/03 16:18
週刊BCN 2005年10月03日vol.1107掲載
経産省が情報家電に関する基本戦略「e-Lifeイニシアティブ」を策定したのが03年4月。ほぼ2年半が経過して、デジタルカメラ、薄型テレビ、DVD、携帯音楽プレーヤーなど機器単体では一気にデジタル化が進み、普及も加速してきた。だが、使われ方はアナログ時代とほぼ同じ。音楽配信やビデオオンデマンドなどのサービスも始まったが、e-Lifeイニシアティブで掲げた「生活様式に変革を起こす」とのレベルには程遠いのが現状だ。
1年前の04年10月には、政策議論用ペーパー「情報家電産業の収益力強化に向けた道筋」を公表し、機器単体をデジタル化するだけでは価格競争が激化して企業収益の悪化は避けられない──との見通しを示した。改めて情報家電のネットワーク化に向けた議論を巻き起こそうと試みたわけだが、その後議論が盛り上がったとの印象は薄い。一方で、05年3月期には三洋電機、パイオニアが赤字を計上、先ごろソニーが06年3月期で11年ぶりの赤字転落を発表するなど、予想通りに企業収益の悪化が進行してきた。
家電製品のデジタル化が進めば、ネットワーク化して全体を制御したり、医療や教育などの新しいサービスが可能になったり利便性が高まることは、誰もが容易に想像できる。経産省には、テレビなどの家電製品のアーキテクチャが、デジタル化、IP化で変革期を迎えている現在、パソコンの二の舞は避けたいとの強い思いがある。すでに完成の域に達しているパソコンで日本が巻き返すのは困難な状況なだけに、情報家電では日本がイニシアティブを取りたいというわけだ。
しかし、家電メーカーの立場で、標準化の推進によって収益悪化に歯止めをかけるシナリオを描くことは容易ではない。パソコン市場をみても、標準化が進むことで低価格化が一段と加速したように、情報家電でも標準化が価格競争に拍車をかける可能性の方が高い。もちろん、標準化が進まなければ、その上で提供されるアプリケーションやサービスで「規模の利益を得られない」(久米孝・経済産業省商務情報政策局情報政策課総括補佐)ことになるが、NTT、KDDI、ヤフーなどの通信キャリアが光回線を売り込むための“囲い込み戦略”としてコンテンツやサービスを提供しているような現状で、標準化をどう推進していくかである。
両省の検討会では、家の内と外をつなぐための標準的な「ホームゲートウェイ機能」が必要との考えが示された。それを実現するものとして、ケーブルテレビなどを接続するセットトップボックスがイメージされているようだが、「現時点では具体的に決めない方が良いだろう」(久米総括補佐)と歯切れが悪い。電力会社の配電盤や通信会社のモデムなどがゲートウェイ機能を加えて高機能化する可能性もあるわけで、確かにそこは市場競争に委ねるべき部分ではあるだろう。果たして経産省の思惑通りに情報家電はオープンソースへと向かっていくのか。今回打ち出した新規施策を推進していく過程で力量が試されることになりそうだ。
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