システム開発の効率化最前線
<システム開発の効率化最前線>4.富士通 VS2005の採用に意欲
2005/10/03 20:29
週刊BCN 2005年10月03日vol.1107掲載
SOAも積極的に活用へ
■SOAの活用でシステムの整合性確保.NETアーキテクチャを活用したビジネスを推進する.NETビジネスフォーラム(松倉哲会長=東証コンピュータシステム社長)に参加する富士通などのメンバーにとって、年内完成予定のVS2005やデータベースソフト「SQLサーバー2005」は、ビジネスに大きなプラス要因になる。富士通では、これら新製品に対する分析を進めており、「評価できる部分は多い」(薮田和夫・プロフェッショナルサポートBG共通技術本部プロジェクト統括部長)とし、積極的に採用を進めていく方針を示す。
しかし、急速な.NETアーキテクチャへの移行については慎重な姿勢も見せる。SMB市場で、これまで納入してきた業務システムの一部に.NETアーキテクチャが登場する以前の「VB6.0」を使って開発したシステムが少なからず残っている。富士通グループ内の技術者のなかでも、こうした顧客への対応のためにVB6.0を使っており、一気に移行するのは意外に困難がともなうという予測がある。
また、VS2005が完成することで、マイクロソフトによるVB6.0へのサポート期限の終了が見え始めており、いつまでも異なるアーキテクチャのシステムを残すのもリスクがある。
そこで登場するのがSOAを活用した異なるアーキテクチャ間の連携である。
大企業など巨大な情報システムを抱えるエンタープライズ市場においては、.NETやJ2EE、メインフレームなど複数のアーキテクチャが併存する環境が一般化しており、こうした異なるアーキテクチャの業務アプリケーション同士をXMLウェブサービスで結びつけるSOAが注目を集めている。エンタープライズの分野では、すでに先進的なSOA活用事例も出始めており、莫大な投資をして1つのアーキテクチャに統一する必要は薄れつつある。
一方、SMBではマイクロソフトをはじめとする単一的なベンダー製品が使われることが多いため、エンタープライズ市場で行われているようなSOAの活用方法は当てはまらないと考えられてきた。だが、VS2005が登場して.NETアーキテクチャへの移行が加速すれば、古いVB6.0を使って開発したシステムとの整合性が取りにくくなる。ここにSOAを活用して、システム全体の整合性を保つ試みが検討されている。
■注目の「チームシステム」
.NETアーキテクチャに対応した業務アプリケーションはSOAに対応しやすい構造なっているが、.NETアーキテクチャが登場する以前に構築された古いシステムはSOAに対応していない。このため、まず旧来のシステムにSOAの接続口を付け加え、これに新しいシステムをSOA方式で接続する。既存のシステムを作り変えることなく、新しいシステムとの連携が図れることで、「開発コストは下がる」(共通技術本部SDAS推進統括部SDAS技術部の永田晴彦氏)と、一括でシステム全体を作り変えるより割安になると話す。
顧客企業のビジネスの変化に合わせて新しい業務システムを付け加えていくタイミングで、.NETアーキテクチャで、なおかつSOAに対応したシステムを順次採用していけば、将来は.NETアーキテクチャですべてのシステムが置き換わることも期待できる。つまり、一度に全体を作り直すよりも顧客の負担は軽減され、満足度も上がるというわけだ。
新しいアーキテクチャへの移行は、開発ベンダーにとっても利点が多い。最新の.NETフレームワーク2.0に準拠したVS2005は、分析や設計、実装、テストのシステム開発全体を作業フローをカバーする「チームシステム」を新しく製品ラインとして加えた。従来のプログラマーなど開発者向けの製品として認知されていたVSだったが、チームシステムが加わることでアーキテクトからプロジェクトマネージャー、品質保証に至るまで開発プロジェクト全体で活用する製品へと変わった。
「SQLサーバー2005」は、約5年ぶりのメジャーバージョンアップで、業務を分析するビジネス・インテリジェンス(BI)機能が新しく加わった。顧客企業向けの業務システムにBI機能を付加できるばかりでなく、VS2005とSQLサーバー2005を組み合わせて使うことで、開発プロジェクトに関連するさまざまな情報を一元的に管理することが可能になる。
富士通は、VS2005の製品ラインの1つ「チームシステム」に注目している。チームシステムとは、ソフトウェアの設計を担当する「アーキテクト」、ソフトウェアを実際に開発する「プログラマー」、進捗管理やコスト管理を担当する「プロジェクトマネージャー」、品質保証を担当する「テスト担当者」のそれぞれの役割を明確にして、チームシステムのプラットフォーム上で密接に連携できるようにしたのが特徴だ。
■カスタマイズで生産性向上も
マイクロソフトが、こうした役割分担の明確化を行った背景には、従来の役割が曖昧なままのソフト開発手法では、トラブルが多発していたことに起因する。プログラマーとテスト担当者を兼任するケースでは、プログラムのミスを見逃しやすくなり、進捗管理の甘さで納期が迫ってくると徹夜での作業が続き、さらにミスを誘発する悪循環に陥ることがあった。チームシステムは、それぞれの担当者を明確に振り分け、役割に応じた仕事に専念することでミスを減らす仕組みだ。
チームシステムでは、開発ベンダーの手法に合わせてカスタマイズが可能になっている。富士通では、今年5月にマイクロソフトの米国本社を訪れ、VS2005の開発メンバーと意見交換している。このとき、パッケージソフトにありがちな硬直さを極力排除した「オープンマインドな考え方が開発メンバーから伝わってきた」(薮田・統括部長)という。開発メンバーは、米国のユーザーや富士通の米国拠点に勤める技術者とも積極的に意見交換しており、こうした取り組みが細部にわたってカスタマイズに対応した柔軟な仕組みを取り入れた背景にあるという。
富士通では、ソフトウェア開発で独自の開発手法の策定や標準化を進めているが、カスタマイズによって既存の組織体制との親和性を高めることが、生産性の向上に結びつくと考える。
VS2005などの製品を採用するベンダーが増えることで、.NETの進化がさらに加速するものと思われる。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)
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