経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>8.メリーチョコレートカムパニー

2005/09/26 20:29

週刊BCN 2005年09月26日vol.1106掲載

 高級チョコレート製造販売のメリーチョコレートカムパニー(原邦生社長)は、今年6月までに販売店舗と本部を結ぶ店舗情報システムを大幅に刷新した。これまでは、店舗に設置したPOS(販売時点情報管理)システムの“数値データ”を本部へ伝えることを柱としていたが、新しい店舗情報システムでは販売員の“言葉”による販売レポートもPOSデータとともに本部へ伝える仕組みに変えた。これにより「数値データだけでは伝えにくい現場の動きが、ほぼリアルタイムに把握できる」(津田稔・総務部システム担当マネージャー)と、売り場の変化により迅速に対応できるようになったと話す。

店舗情報システムを大幅刷新

 現在、同社が全国に展開している店舗数は約2000。このうち社員が出向して運営している店舗は約160店舗ある。POSシステムはこの約160店舗を対象に導入しており、これら店舗から集まってきたデータを本部が分析する。市場のニーズなどマーケティング情報を「ほぼつかめる」(同)と、POSデータなどの分析によって、おおまかな生産・販売計画を立てられるまで完成度を高めてきた。だが、売り場における商品陳列の細かな工夫や販売員が顧客に接するなかで気づいたことなど、“数値データ”を通じて表現しにくい場合には“文字”で伝えた方が効率がいい。

 仮に、地震や台風など自然災害が発生した時に、ある販売員が保存性に優れ、非常時の食料としても使える「保存食チョコレート」を店の目立つところに置いたところ飛ぶように売れたとする。こうした情報を店舗情報システムのタッチパネルなどを使って文字入力すると、本部の担当者はすぐに他の店舗にも同様の試みをするよう指示ができる。POSデータだけでは約150種類ある商品の中に埋もれてしまい、保存食チョコレートが売れていることに気づくのが遅れてしまう可能性がある。自然災害などにともなう需要の一時的現象は、気がつくのが遅ければビジネスチャンスを逃してしまうことになる。

 主力商材の高級チョコレートは、季節商材で、販売するタイミングを逃すと在庫となるリスクが高い。チョコレートそのものは保存食としても利用できるほど安定した食材だが、ビジネスとして見るとそれぞれの商品が売れる“旬”の期間はとても短い。その代表例が2月14日のバレンタインデーで、この日を過ぎるとバレンタインデー用のチョコレートは売れなくなる。

 同社は贈答品がメインとなる高級チョコレートの比率が高いため、お歳暮やお中元、母の日や父の日、クリスマスなどのイベントが大きなビジネスチャンスとなる。こうしたビジネスチャンスのタイミングを的確に捉えて、最適な商材供給と販売マーケティングを展開することが事業拡大の大きなポイントになる。

 社員が出向している約160店舗の売り上げは、全社の売上高の約6割を占めている。社員数で見れば全社員約700人のうち半分に相当する約350人が店舗で勤務している。これまでは販売員が気づいたことなどを報告書に手書きで記入し、1週間分を本部に送付。本部は受け取った報告書をパソコンに入力し、他の店舗にとって参考になる情報を編集し、「メリーズインフォメーション」という小冊子にまとめ、再び各店舗に送り届けてきた。この仕組みでは、ある店舗で起こった最初の「気づき」が、各店舗へ伝わるまで最長で2週間かかってしまい、回転が速いチョコレート商材のビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねない。

 メリーチョコレートカムパニーでは、今回導入したシステムを含む店舗情報システム全体の総称を「メリーズ・アドバンスド・ショップ・コミュニケーション・ターミナル(MASCOT=マスコット)」と命名し、店舗とのコミュニケーションに重点を置くことで商品開発や販売効率の向上に生かしていく。

 MASCOTの開発コンセプトは、「本部はまるで店舗にいるように現場の状況がよく分かり、店舗の販売員は本部にいるように会社全体の情報が把握できる」ことにある。店舗に対して一方的に情報の入力を求めるのではなく、店舗の端末から過去の売り上げ状況や在庫情報などを閲覧できるようにし、必要であれば基幹業務システムに直接アクセスできる双方向のコミュニケーションの仕組みも作った。

 社員が出向する約160店舗では、店ごとに利益や在庫を管理する自主経営を行っており、「販売員は自分の店の経営数値を的確に知ることで、経営の改善がしやすくなる」(同)と、販売員の意識や士気を高めるのにも役立っていると分析する。同社の昨年度(2005年8月期)の売上高は前年度比約1.1%増の175億円、経常利益は同1.7%増の17億5000万円で、7期連続の増収増益を達成した。今後はデータや言葉だけでなく、商品陳列の写真など画像データも積極的に活用していく方針で、店舗との多角的なコミュニケーションを通じてビジネスの拡大に力を入れる。(安藤章司)
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