経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策
<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>7.アースダンボール
2005/09/19 20:29
週刊BCN 2005年09月19日vol.1105掲載
EC通販の新規需要を獲得
少量多品種の製造に欠かせない個別原価計算の手法を取り入れたのは1990年。バブル経済真っ盛りで需要に衰えは見られなかったものの、「いずれ少量多品種に対応した原価計算が必要」(奥田社長)と判断、個別原価計算のシステムを独自に開発した。段ボール箱業界で古くから用いられていた原価計算は、使用する段ボール板の面積に応じて原価を算出する方法だった。段ボール板の使用面積に比例して価格を割り出すため、たとえば1m2・100円の段ボールを10m2使えば1000円、100m2使えば1万円と単純積算をベースとし、少量多品種化による手間賃、時間のロスなどのコスト増が算出しにくい弱点があった。
大量消費時代では、こうした原価計算の方法でも対応できたが、少量多品種に対応しようとすれば、段ボール箱を製造する機械や印刷、糊付けを行う機械の占有時間、電話やインターネットで小口注文を取るための手間賃、積載率や重量による運送料に至るまで綿密な原価管理が求められる。少量生産では、1箱あたりの単価が大量生産に比べて割高に設定しなければ適正な利益が得られず、逆に大量生産する時は1箱あたりの単価を従来の面積による原価計算に比べ割安に設定しても利益を得られることが、個別原価計算の導入によって、より明確に分かるようになった。
アースダンボールでは受注した量と内容によって適正利益を得られるシステムの開発を続け、91年には段ボール箱メーカー向け個別原価計算・見積もりシステム「営業一課丸山君」をパッケージソフト化して外販するまでに完成度を高めた。しかし、従来型の原価計算が浸透していた段ボール箱業界では受け入れられず、「わずかな量しか売れなかった」(同)と、自分たちが“特殊”な取り組みを行っているのを思い知ることになった。パッケージソフトはあまり売れなかったが、個別原価計算の手法に間違いはないとの信念から同手法による原価管理を徹底し、バブル崩壊後に同業者が苦しむなかで、勝ち残る基盤を固めることができた。
96年、インターネットが本格的に普及し始めたタイミングを狙って、インターネットによる段ボール箱の販売を始めた。00年に差しかかるあたりからインターネットで物販などを手がけるEC事業者のビジネスが本格的に立ち上がり始め、これに伴う段ボール箱の需要を捉えることに成功。インターネットを経由して注文を取る顧客数が急速に伸びた。
インターネット経由で受注を始める以前、取引口座がある顧客数は約200社あり、このうち売上構成比で約20%を占める大口顧客が1社、同10%前後の顧客が数社あり、上位10社程度の特定顧客に売り上げを依存する構造だった。個人の顧客は皆無に近かった。
しかし、インターネットによる新規顧客の開拓で、顧客数は劇的に増えた。昨年度(04年10月期)の顧客数は法人、個人を含め約1万件に増え、従来、売上構成比で約20%を占めていた大口顧客の比率は5%を切るまで下がった。個人や個人事業主からの受注も増え、現在では顧客数全体の約半分を占める。
顧客数が増えたことで、少量多品種の受注が大幅に増えた。ECサイトなどで物販を行っている事業者は、商品価値を高める見栄えの良いオリジナルの段ボール箱を求めるケースが多いという。EC通販では、消費者が直接店舗などに足を運ばないため、実店舗の内装や照明などで顧客の目を惹くことができない。ウェブサイト上の商品写真などの陳列で見栄えを良くする工夫が求められるのと同時に、商品を消費者に届ける際の段ボール箱のデザインが、そのECサイトに対するイメージや商品価値を大きく左右すると言われている。
アースダンボールでは、こうした需要を受けて、印刷の品質を高めたり、箱のデザインを改良したりと、「こだわりの箱づくり」(同)に力を入れる。すでに完成の域に達している個別原価管理方式による徹底したコスト管理システムを駆使し、付加価値の高い段ボール箱を提供しながらも、適正な利益率に抑えることで顧客満足度を大幅に高めた。昨年度の売上高は約4億円と段ボール箱業界の中で規模が大きい方ではないものの、少量多品種への対応とデザインなどによる付加価値の高い段ボール箱を適正利益で製造することで、厳しい競争下でも売り上げを伸ばしている。
今後は、インターネット経由で開拓した顧客ではない既存顧客に対する安定的なビジネスを基盤としながら、インターネット経由で開拓したEC通販事業者など新規顧客の需要をこれまで以上に取り込んでいくことで、より一層の成長を目指す。(安藤章司)
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