コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第22回 北海道(3)
2005/09/12 20:42
週刊BCN 2005年09月12日vol.1104掲載
連携して支え合う中小SI 大手は地方拠点の取り組み強化
■道経済の落ち込みで地元案件伸びずソフト産業では、大手ベンダーを中心に中国やインドでのオフショア開発を積極化する動きが出ている。そうした動きに対抗して、中堅クラスのSIが北海道など首都圏に比べ労働コストが安い地域に〝国内オフショア開発〟を模索する動きがある。北海道の地元SIでは、それに応えるように首都圏からの開発委託を受け入れ始めていることは、これまでにレポートした。ある中堅SIのトップは、「まず日本語で会話できること、地方でもスキルが劣るわけではないことで、中国などに比べ多少労働コストが高くてもメリットはある」とし、確実にこうした動きは広がっているようにも見える。
「しかし…」と苦笑いするのは、北海道日立情報システムズの高橋美伸・取締役情報システム本部本部長。「北海道の労働コストが安いのは事実。しかし、首都圏のプロジェクトを受注できても開発期間中の度重なる出張や長期滞在が必要になった場合を考えると、安い受注額では折り合わない」という。
同社の場合、売上高約18億円のうち北海道内の案件の割合は40-45%。北海道内での売り上げにはサプライ品の販売も含まれるため、純粋なソフト開発での売り上げはそれより若干少ないことになる。これに対して首都圏でのプロジェクトは、売上高の半分以上を占めている。「かつては道内向けの売上高は55%程度あった」(高橋取締役)とし、比率が落ち込んだ原因は道経済の落ち込みにあるという。大手製造業向けは本社の担当になるので、地元の開発拠点はその関連企業や地元の中堅・中小企業(SMB)などがターゲット。こうした層の需要が、「道経済の低迷に引きずられて伸びていない」(同)ことが業績が伸び悩む原因だ。
「第1に情報システムに対する投資が鈍い」(同)。そこで同社は、パッケージソフトの販売を強化する方針を固めた。そのために、PAI(パッケージド・アプリケーション・インテグレーション)事業部を設け、パッケージに特化した事業スタイルをとり始めた。導入するのは日立グループの開発したパッケージが中心になるが、本社には「勘定奉行」など他社から調達するパッケージのパンフレットも用意しており、SMB向けにパッケージ販売とSIを積極化したい考えだ。ちなみに「勘定奉行」については、「まだ始めたばかりなので実績はない」(同)そうだ。
伸び悩む原因は他にもある、その1つが自治体の電子化の遅れだ。「北海道では自治体合併が進まなかった。212あった自治体が180程度になるが、広さが災いして予定したほど進んでいない」(同)という。自治体合併での情報システム更新や新システム導入という期待もアテが外れたわけだ。北海道日立情報システムズは広い北海道をカバーするため、道東、道北、道南、道央の4か所にそれぞれパートナーを確保している。今後、自治体案件の受注拡大を目指し、「あと2、3社は確保しておきたい」(同)考えだ。
■地域のニーズをていねいに「拾っていく」
札幌市郊外、厚別区の下野幌テクノパークに富士通北海道システムズ本社がある。同社が抱えるシステムエンジニア(SE)は約500人。しかし、「このうち70人は首都圏に常駐している」(油井克実社長)。富士通の横山豊・北海道営業本部長によれば、「富士通の北海道での売上高のうち40%が道内で、60%が道外」という。ここ4-5年は道内60%と、地域のエンジニアリング会社としての強みを発揮してきたが、様相が変化し始めた。
ただ、「富士通の中でも北海道システムズは、農業情報や医療分野などに強いという特徴がある。こうした分野については、富士通北海道システムズが任されるケースが多い」(油井・富士通北海道システムズ社長)と、得意分野があることで、こうしたプロジェクトが富士通グループの中で担当することになると自負している。
横山・北海道営業本部長は7月に着任したばかり。それ以前は静岡支店長を務めていた。「北海道と静岡では大きく違う」とその事業環境の違いに戸惑う面もあるとか。北海道での自治体シェアは高いが、1つの自治体ごとの広さも本州とは大きく違うだろう。こうした自治体向け、地方企業向けのサポートやSIに、富士通は道内に30社以上のパートナー企業を揃えている。単なるハード売りなどではなく、それぞれSIも担当するというパートナー群だ。
しかし、ビジネスは札幌市を中心とした道央に集中する傾向がある。全国規模のパートナーを除き地元のパートナーによる売り上げのうち、道央を基盤とする大手3社だけで60-70%を占めている。地域間の景気の差が明確に現れている。
「地域のニーズをどうやって取り込んでいくか。医療や自治体といった分野で箱売りだけではなく、ソリューション提案で需要を掘り起こしていく。富士通ブランドで攻め込むと同時に、パートナーを生かす後方支援が我々の仕事」(横山・北海道営業本部長)と、地域のニーズをていねいに「拾っていく」ことで、パートナーも富士通も業績拡大につなげていくことが不可欠だ、と語る。
北海道は中小規模のソフトベンダーが多い。北海道の共通基盤システムを開発する戦略的なベンチャーを育てる風土がある一方で、広い北海道内で地方ごとに地場の数少ないニーズに頼る企業や大手ベンダーのパートナーとして〝後方支援〟を頼みの綱とする企業も少なくない。
北海道外の開発案件を取り込む動きはこれからも広がるだろう。多くの経営トップが、「待っていても仕方ない。こちらから営業に回らなければ仕事はとってこれない」という。営業に回る先は、首都圏で元請けとなっているSIなどが多いのだ。
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