経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>6.アキュラホーム

2005/09/12 20:29

週刊BCN 2005年09月12日vol.1104掲載

 住宅の建築・販売のアキュラホーム(宮沢俊哉社長)は、1980年代からITを活用して住宅建築のコスト削減に努めている。住宅に必要な部材をデータベース化し、板1枚から釘1本に至るまで徹底的な原価管理を行い、これまで他の先進諸国に比べて割高だった日本の住宅市場で価格革命を起こした。

IT活用で住宅の価格革命

 80年代初め、大工として住宅建築の現場にいた宮沢社長は、原価管理の甘さに疑問を抱いていた。住宅建築の現場では、熟練の大工が「柱はこのくらい、梁はこのくらい」と、長年の経験をもとに家を組み立てていくのが当たり前で、コスト意識は希薄だった。職人はいい家を建てたいという意識が強く、いい家を建てるにはそれなりのコストがかかるという論理だった。大工の仕事は“KKD”(勘、経験、度胸)がポイントだと言われ、「今から思えばドンブリ勘定と言われても仕方がない」(宮沢社長)と、コスト管理に甘さがあったことを認める。

 日本の住宅価格は米国など先進諸国に比べて3-4割高く、しかも壊れやすく寿命も短いと批判を浴びていた。高度成長期に建てられた一部の建て売り住宅の品質が悪く、10年もたたないうちに建て替えなければならないこともあった。宮沢社長は、価格を諸外国並みに抑えて、丈夫で寿命が長い高品質な住宅建設を実現するため、すべての部材をデータベース化し、コストや在庫、品質管理を徹底した。

 80年代は安価なコンピュータがなかったため、最初はコンピュータより安いワープロ専用機の「追加、挿入、削除」機能を使い、およそ2万点の部材の単価表を作成した。その後、オフコンに切り替えてデータベース化を進めた。

 部材の原価計算を進めていくと、多くの部材で5-10%のコストを削減できることが判明し、「ものによっては半値近くになった」(同)と、これまで甘かった原価意識を根底から覆すことにつながった。すべての部材の原価を見直すことで、従来、1坪(3.3m2)あたり40万円すると言われていた木造注文住宅を、品質を落とさずに同21万円まで下げることに成功した。

 当初およそ2万点あった部材のデータベース項目は、管理の手間を軽減するため、利用頻度の高いものを中心に5000点に絞り込んだ。また、個々の部品を組み合わせたユニット単位で原価管理できる仕組みを新しく追加し、部品の単価が変動すれば、ユニットの価格も自動的に変わる仕組みを開発した。

 例えば、クローゼットに使う木材の価格が変動すれば、クローゼット全体のユニット価格も連動して変動するのと同時に、同様の木材を使う他のユニットの価格も連動して変動するようにした。住宅には金具や木材など共通の部材が多く使われており、こうした部材の価格変動を自動的に住宅全体の価格へ反映する仕組みを90年代前半までに確立した。現在では300-400種類のユニット単位の価格を管理しており、常に変化する部材の価格を即時にユニット価格へと反映し、これに基づいた住宅の販売戦略を迅速に展開できるようになった。

 94年には、データベースを活用した住宅部材の原価管理や販売管理をパッケージ化した住宅建設事業総合支援システム「アキュラシステム」を開発し、他の工務店などに向けて外販を開始。98年には、全国の工務店などとアキュラシステムをベースに住宅を建築・販売する組織「アキュラネット」も設立した。

 アキュラホーム単体でのビジネス規模では、大手住宅メーカーの資本力には到底太刀打ちできない。低コストのアキュラシステムを実践する全国の工務店などと連携し、低価格・高品質の住宅を販売する組織がアキュラネットだ。現在約600社の工務店などが加盟し、ITを駆使した情報共有の仕組みも構築している。昨年度(05年3月期)はアキュラネット全体で8000棟あまりの住宅を受注。住宅建設業界で上位のシェアを占めるようになった。

 アキュラネットの組織力を生かして、調達コストの削減や研究開発、商品開発への投資を積極的に行っている。アキュラホームの売上高は昨年度(05年2月期)で107億円程度だが、アキュラシステムをベースに年間8000棟あまりを受注するアキュラネット組織全体では、「部材メーカーから一目置かれる存在」(同)にまで成長した。一部の部材を共同購買したり、期間限定で特定メーカーの商品を集中的に採用することで調達コストを下げる努力を続けている。

 また、アキュラネット会員約600社から集まる会費や商品の共同開発費、共同販売費などは年間数億円単位となり、「大手住宅メーカーに匹敵する」(同)投資が可能になっている。

 ITを活用した部材の原価管理の徹底や、全国約600社の工務店などからなるアキュラネットによる共同購買や商品開発、販売展開など規模のメリットを生かしたコスト削減を通じて、今後とも高品質で競争力のある住宅供給に力を入れていく方針だ。アキュラネットは9月16日から地域密着の工務店ネットワークを意味する「ジャーブネット」(JAHB=Japan Area Home Builders)に名称変更し、参加する工務店の地域に密着したビジネスの拡大に力を入れる。(安藤章司)
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