システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>3.日本HP 独自フレームワーク構築へ

2005/09/05 20:29

週刊BCN 2005年09月05日vol.1103掲載

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP、小田晋吾社長)は、オリジナルのソフトウェア開発基盤「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」のプロジェクトを進めている。日本HPが独自に開発しているもので、マイクロソフトのフレームワーク最新バージョン「.NETフレームワーク2.0」に対応していく予定だ。マイクロソフトの最新フレームワーク上に日本HP独自のフレームワークを構築することで生産性を高め、他社との差別化を図る。(安藤章司●取材/文)

開発生産性の向上を目指す

■日本HP独自で標準化進める

 日本HPでは、昨年11月からオリジナルのソフトウェア開発基盤「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」のプロジェクトを進めている。これまで世界のHPグループ全体で統一された開発手法「HPグローバルメソッド」は存在していたが、日本HP独自でフレームワーク標準化を進めるのは今回が初めて。HPグローバルメソッドとの整合性を保ちながら、マイクロソフトの最新のフレームワークに対応することで、競争力の向上を目指す。

 独自の開発フレームワークの拡充を進める背景には、マイクロソフトのプラットフォームが移行期に差しかかっていることがある。マイクロソフトでは開発ツールの最新バージョン「ビジュアルスタジオ2005」と、データベースソフトの最新バージョン「SQLサーバー2005」のリリースを近く予定しており、日本HPの「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」では、これらマイクロソフト製品の最新バージョンにいち早く対応していく。マイクロソフトのフレームワークではカバーしきれない業務アプリケーションレイヤーの部分を中心に、独自の開発フレームワークの拡充を急ぐ。

 世界のHPグループ全体のなかで、日本HPのソフトウェア開発部門は規模が大きいことから、「世界に先駆けて独自フレームワークの標準化作業を進める」(日本HPの大樂秀俊・コンサルティング・インテグレーション統括本部ITコンサルティング本部.NETソリューション部部長)と、率先して開発手法の標準化を進めるプロジェクトを立ち上げた。欧米など海外のHPグループでは、地場のISV(独立系ソフトウェアベンダー)と組んでソフトウェアの開発を進めるケースが多いが、国内では国産コンピュータメーカーの勢力が大きく、大規模なISVのリソースを集めにくいという理由から、独自にソフトウェア部門の拡充を進めてきた。

■ソフト開発のチーム全体をサポート

 「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」プロジェクトでは、マイクロソフト製品の新バージョンの特性に対応させる。開発ツールの「ビジュアルスタジオ2005」は、.NETフレームワークの最新バージョンであるバージョン2.0に対応するとともに、「ビジュアルスタジオ2005」の製品ラインアップの1つとして「ビジュアルスタジオ2005チームシステム」をリリースする。また、データベース「SQLサーバー2005」も「ビジュアルスタジオ2005」との同時リリースを予定するなど、開発ツールとの“一体感”を意識したマーケティングを展開している。

 日本HPが特に注目しているのは「ビジュアルスタジオ2005チームシステム」である。従来のビジュアルスタジオシリーズは、主に開発者個人の生産性を高めるツールとして提供してきた。今回リリースするチームシステムでは、ソフトウェアのアーキテクトからプログラマー、動作検証などを行うテスト担当者まで、ソフトウェア開発に携わるチーム全体をサポートした開発システムとして提供される。設計を担当するアーキテクトから実際の開発に従事するプログラマー、動作検証などの品質保証部門まで横断的にカバーすることになり、日本HPでもチームシステムに対応した開発体制の整備に取り組む。

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 ビジュアルスタジオ2005では、.NETフレームワークの最新バージョンであるバージョン2.0に対応している。.NETフレームワーク2.0ではさまざまな機能が強化されているが、日本HPでは「ウェブサービス関連のセキュリティ機能の強化やクライアント端末へのアプリケーションの配布効率の向上」(日本HPの田中洋・コンサルティング・インテグレーション統括本部ITコンサルティング本部.NETソリューション部コンサルタント)などの点を高く評価している。.NETアーキテクチャの特徴の1つであるウェブサービスを活用したSOA(サービス指向アーキテクチャ)の構築を、より迅速に、確実に開発できる基盤が強化されると予測する。

■情報の一元管理に有効なSOA

 SOAの利点は、業務アプリケーションを“サービス”と捉え、これらサービスをウェブサービスなどを使って有機的に結びつける点にある。

 個々の業務アプリケーションをSOAに対応した形で開発すれば、異なるアプリケーション間をシームレスに連携できる。.NETフレームワーク2.0では、連携部分のセキュリティを強化しており、「顧客の個人情報や製品の開発情報など、外部への流失が許されない重要な情報を有効に活用するアーキテクチャとして需要が高まっている」(大樂部長)と、.NETベースのSOA需要の高まりに手応えを覚える。

 機密情報を守るには、一元的な情報管理が求められており、これを実現する手段としてSOAは有効であるとの考え方である。従来のように必要な部門が機密情報の一部をコピーして使う方式では、どうしても社内の各部門に機密情報が分散しがちである。SOAを使えば、機密情報をサービスとして必要な時だけ参照するため、「情報の一元管理がしやすくなる」(同)と、.NETを活用したSOAの利点を訴求する。

 ビジュアルスタジオ2005チームシステムや.NETフレームワーク2.0、SQLサーバー2005、将来は次期ウィンドウズサーバーなど、「今、マイクロソフトのプラットフォームは大きく変化する移行期に差しかかっている」(田中コンサルタント)とし、日本HP独自の「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」プロジェクトも、こうしたプラットフォームの進化に歩調を合わせながら、随時、手直しや機能の拡充を手がけていく方針だ。独自のフレームワークを定めることで、マイクロソフトのプラットフォームだけでは実現できない付加価値を提供する。

 日本HPにとって有力なビジネスパートナーであるマイクロソフトの最新のプラットフォームに対応した「.NETアプリケーション開発フレームワーク標準化策定」により、業務アプリケーション分野で、より迅速に、顧客企業が求める高品質な情報システムを提供できるソフトウェア生産の体制強化を進める。こうした取り組みにより、SOAに即した、実効性ある.NET環境の提供に努めていく考えだ。
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