経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>4.中小企業庁

2005/08/29 16:04

週刊BCN 2005年08月29日vol.1102掲載

 中小企業庁は、中小企業のITを活用した経営革新を促進する「IT活用型経営革新モデル事業」で、今年度、バリューチェーンの最適化を目指してICタグを用いた食品トレーサビリティや流通業務効率化などを新規テーマとして取り上げた。ICタグを用いた食品トレーサビリティなどでは、生産者から流通卸、小売店まで共通したITの活用が求められ、個別の企業内のみで導入するITより「経済波及効果が大きい」(中小企業庁経営支援部技術課の柿町宜孝氏)ことがテーマの1つとして採用した背景にある。

バリューチェーンの最適化へ

 従来は、中小企業のIT基盤の強化に重点を置いてきたが、今年度からはバリューチェーン全体の最適化を視野に入れ、複数の企業で連携したIT活用に重点を移した。企業単体や企業内部門のIT化のステップから、企業の壁を越えたバリューチェーン全体でのIT活用へと導いていくのが狙いだ。今後はバリューチェーン全体で、より高度なIT活用を促進することで、さらに大きな経済波及効果を創り出していく方針を示す。従来は、ERP(統合基幹業務システム)やCAD/CAM、SCM(サプライチェーンマネジメントシステム)など、企業が個別に導入するITが中心だったが、今後は企業間の連携をより重視する。

 来年度は、こうした動きをさらに加速させ、企業間連携によるバリューチェーン全体の最適化を採択方針のテーマの1つとして盛り込むことを検討する。具体的には、複数の企業でインターネットを使ったEDI(電子データ交換)の導入など、企業間をまたいだIT活用を促進する。取り引き関係にある複数の企業で横断的に活用できるITの導入を支援することで、経営革新の有効性をさらに高めていく考えだ。

 経済産業省では、ITを活用したバリューチェーンの最適化など、経営と直結したIT活用を実践することで、国際競争力が高まると分析している。これまでのIT活用は、企業内の部門単位を最適化する「部門内最適化」のステップが中心だったが、今後は、企業組織全体を最適化する「組織全体最適化」、さらに一歩進めて、企業組織の壁を乗り越え、バリューチェーン全体を最適化する「共同体最適化」のステップへと移行すべきだと考える。経営の視点でIT活用を推進することが国際競争力を向上させ、経済の活性化に結びつける。

 中小企業庁の「IT活用型経営革新モデル事業」の今後の方向性は、こうした「共同体最適化」の考え方に沿ったもので、企業間のITを活用したコミュニケーションの促進や企業の壁を越えた連携を支援する。

 「IT活用型経営革新モデル事業」は、2002年度からスタートした事業で、バリューチェーンの最適化などをテーマに加えて、来年度も継続する予定だ。再来年度以降は、どのような形で中小企業のIT活用を支援するのかは未定としながらも、経産省内外の施策などとの整合性をにらみながら「新たな支援内容を検討したい」(柿町氏)としている。

 同事業は、中小企業および中小企業が連携して設立するコンソーシアムなどを対象に、ITを活用したビジネスシステムの構築に向けての「事前調査研究事業」と、実際の開発・導入を行う「経営革新支援事業」の2事業からなり、対象となる経費のうち最高で2分の1を補助している。今年度までの4年間の両事業を合わせた申請件数は1456件で、このうちの採択件数は269件。同事業の予算額の合計は32億6000万円余りに達した。

 また、斬新なIT利用法やビジネスモデルなどを活用して新規ビジネスに挑戦しようとする起業家や中小企業経営者を支援する法整備も進んでいる。今年4月には、これまでバラバラだった中小企業支援に関する法律を整理統合して、新しく「中小企業新事業活動促進法」が施行された。起業や経営革新などに意欲的な起業家や中小企業に支援することを目的に、従来の「中小企業経営革新支援法」、「中小企業創造法」、「新事業創出促進法」の3つを統合し、技術開発から販路開拓まで一貫して支援する体制が強化された。

 こうした法体系の整備も踏まえて、中小企業庁では、中小企業が持つ技術やノウハウを相互補完しながら、高い付加価値の製品やサービスを創出できるよう、バリューチェーン全体を見据えたIT活用型の企業間連携を推進していく方針だ。(安藤章司)
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