コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第19回 山口県
2005/08/15 20:42
週刊BCN 2005年08月15日vol.1101掲載
次のステージ見据え、変革進める県内情報産業
■製造業向けのノウハウを生かす宇部情報システム(宇部市、小谷雅透社長)は、宇部興産の情報システム部門が1983年に独立した。製造業の現場業務の効率化という観点から、総合的な情報システムの構築・運用を進めてきた。一方で、大手製造業はレガシーシステムによる資産を多く抱え、簡単に新たなシステムへの切り替えは行えない。また、開発期間が長くなるという特性もある。「製造業向けというキーワードは外せないが、一般企業向けなどウェブ系への対応が必要」とは、光田一善・企画管理部課長。製造業をコアとしつつ、新たな特性を生み出すことを目指し、01年3月にオブジェクト指向技術に強みを持つオージス総研の資本参加を受けた。現在の資本構成はオージス総研51%、宇部興産49%となっている。
04年度(05年3月期)の売上高は46億円で、約半分が宇部興産向け、残りが一般企業や自治体向け。当面の目標は、早期に一般向けなどの比率をいかに高めるかということだ。「製造業向けのノウハウを正社員で受け継ぎ育てる一方で、新入社員にはオージス総研の教育に参加させ、最新技術や短期間で開発するノウハウを学ばせている」(光田課長)。また、今年度から両社で共同受注のためのワーキンググループを立ち上げた。製造業向けノウハウとITという互いの強みを生かすためで、生産計画に関するパッケージソフトの共同開発が目標だ。
もちろん、宇部情報システム内部の改革も検討している。一般企業向けの主要営業拠点は東京オフィスだが、より効率的な運営法を考えていく。さらに、東京オフィスとの人材ローテーションを組み合わせながら、優秀な人材の確保が容易な山口を生産部隊の拠点とする、あるいはシステムエンジニアとプログラマーの分離なども、今後の検討課題になってくる可能性があるという。
同じく化学会社であるトクヤマの情報システムグループが分社化してできたトクヤマ情報サービス(周南市、増田和昭社長)は、設立後2年半あまりということもあり、まず親会社とそのグループ企業群を事業基盤として固めることに集中している。
増田社長は、「分社したといっても、グループの商権すべてをもらったわけではない。また、親会社の事業も好調で情報系投資も多く、マンパワーは不足気味。グループ内でワンストップサービスを提供するためには、採用やパートナーの獲得も必要」という。実際、親会社の人事・給与システムやグループ会社の会計システムのリプレースがスタートしており、今後2年程度は手一杯の状態が続く。さらに次には、親会社でのERP(統合基幹業務システム)導入などのテーマも抱えている。
物理的なマンパワーの不足だけでなく、教育も重要な課題だ。「ホスト系で育っているので、オープン系の勉強が必要」(増田社長)という。当初はITSS(ITスキル標準)の活用を考えたが、ユーザー系の企業であることから業務知識が不可欠であり、別途、全社的な教育システムを導入する方針。今年度下期か来年度にはスタートさせる。
「当面は、基幹系、情報系、パソコン系、ネットワーク系を切り口にグループ企業からの受注獲得を進める。また、地元のグループ外企業からもニーズはある。将来的には手掛けていきたい」(増田社長)としている。
■ニッチに特化し安定基盤構築も
大手企業の情報子会社とは違い、ニッチな市場ながら全国で高いシェアを獲得しているパッケージソフト開発会社もある。ヤナイ・ソフトウェアー(柳井市、岩永一江社長)は、瓦屋根工事で活用される瓦積算システムを核とした建築分野のパッケージ開発がメイン。瓦積算ソフトは87年の発売から現在の「瓦プロ2000」まで累計で1000社を超える屋根工事会社などに販売している。
「(住宅の躯体と違い)屋根工事はコンピュータ化が遅れ、手作業で積算していた。地元の屋根工事会社を通じて市場を調べると、十分にやっていけると感じた。現在でも導入しているのは上位の3割程度で、中間規模の会社には、まだまだ導入の可能性がある」(岩永社長)という。入力が簡単だったことが評判を呼んだが、当初は屋根工事事業者の名簿を丹念に当たることから始めた。地方の有力情報サービス会社なども代理店に手を挙げ、業績は順調。
「片田舎の柳井から発信するということにデメリットは感じていない。むしろ、片田舎からこそ発信したい。人材の確保は大変だが、特殊な領域であり、開発に外部のパートナーを使うこともない」(岩永社長)とし、来春の発売をめどに新製品の開発を進めている。ニッチながら住宅関連に特化することで、安定的な基盤を築くことが目標だ。
今春まで山口県情報産業協会の会長を6年にわたり務めたAI企画(岩国市)の中谷実社長は、「産官学連携」をキーワードに地元自治体などへの働きかけを続けてきた。「IT」といった言葉を前面に押し出し過ぎると、かえって「情報化」の必要性についての理解を阻害すると考えたためのようだ。
「理解は深まってきている。協会としてできないことは、やまぐちIT支援センター協同組合などの形で、実態調査を行ったり、地産地消への対応も考えるようになっている」(中谷社長)という。個々の企業はオールマイティではなく、強みを生かす一方で、足らざるは協力を得るということだ。AI企画でも、そうした方針を実践している。
「ユーザーごとのソリューションからモジュール化による対応まで行ってきたが、今後は産官学連携などを踏まえ、パッケージ化できないような新しい分野の商品化を進めたい」(中谷社長)としている。すでに「瞬きコミュニケーションによる入力システム」や「砂場の砂再生システム」などユニークな取り組みを行っている。また、地上デジタル放送やブロードバンドの普及を踏まえたコンテンツ制作にも意欲的。「大手が安く提供できるものを追いかけても仕方ない。今はあらためて品揃えを整えているところ」(同)という。
地域的にも分散し、印象の薄かった観もある山口県の情報産業だが、次のステージに向けた変革期の中にあるようだ。
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