e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>47.電子政府・電子自治体戦略会議(上)

2005/08/08 16:18

週刊BCN 2005年08月08日vol.1100掲載

 今年で5回目を迎える電子政府・電子自治体戦略会議(主催・日本経済新聞社)が7月28、29日に東京都内のホテルで開催され、今年も地方自治体トップ11人が参加して電子自治体について活発な議論が行われた。一昨年の会議に出席した石川嘉延・静岡県知事、木村良樹・和歌山県知事、石井正弘・岡山県知事のほか、昨年に引き続いて山田啓二・京都府知事が参加。ほかに増田寛也・岩手県知事、西川一誠・福井県知事、泉田裕彦・新潟県知事、飯泉嘉門・徳島県知事、広瀬勝貞・大分県知事の5知事と、松崎秀樹・浦安市長、北脇保之・浜松市長も加わり、3つのセッションに分かれてそれぞれの自治体での先進的な取り組みなどを披露した。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 この連載で同会議の話題を取り上げるのは3回目だが、e-Japan戦略がスタートして5年、電子自治体も一段と進化してきたことを実感できる会議となった。特に印象に残ったのは、ITを防災や安心・安全のために積極的に活用しようという動きが活発化していること。さらに電子自治体の実現に向けて積極的にBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)に取り組み、具体的な成果が出始めていることだ。

 地震や水害などの災害対策に加えて、テロや地域の防犯などの治安対策、個人情報保護やサイバーテロなどの情報セキュリティ対策など、国民の安心・安全に対する意識が高まってきている。昨年、水害に苦しんだ福井県では「災害時に、ITを戦略的に活用していく」として、河川情報を文字だけでなくグラフや映像などのデータでも提供し始めたほか、携帯電話へのメール配信を利用したシステムの導入を進めている。中越地震の教訓から新潟県でも、携帯電話メールを利用した防災システムを2006年度から稼動させるほか、岡山県や徳島県からも総合防災情報システムの構築を進めていることが報告された。携帯電話メールは、災害時の避難勧告・指示を住民に伝える仕組みとして各自治体とも注目しているものの、携帯電話が通じない地域が福井県では25地域、大分県では県土の30-40%に達しており、大分県では県で整備した豊の国ハイパーネットワークなども活用しながら非通話地域の解消を目指すなど課題も浮かび上がった。

 情報セキュリティでは、和歌山県が個人情報保護に配慮したセキュリティの高い新クライアントシステムの導入を進めているほか、コンピュータ犯罪に関する国際会議を10年間も主宰している県内の民間非営利活動(NPO)法人がサイバークライム大学院の設置に取り組んでいることを紹介。徳島県では、行政情報バックアップセンターへのサイバーテロ対策として、データを5-6か所に分散することで、1か所だけが攻撃を受けても情報が判らないようにする仕組みの導入を進めていることが披露された。

 安心・安全の問題に関しては、パネルディスカッション司会の須藤修・東京大学大学院教授から、個人情報の取り扱いに関する重要な問題提起が行われた。例えば、安全対策として設置する防犯カメラも、その映像情報をどう扱うかでプライバシー問題となる可能性がある。さらに阪神・淡路大震災などの教訓で、大地震の時に住民が着の身着のままで公民館などに避難した場合、誰がどこに避難したのかという情報を把握するのが難しいのに加え、持病がある避難者がいた場合、カルテを確認して適切な薬を処方することが非常に困難であることも明らかになったが、事前に病気に関する情報を行政機関に登録しておいてもらうといった対策が果たして可能なのかといった問題である。

 個人情報保護法は、ある意味で個人情報を適切に利用することを可能にするための法律だが、どのような利用の仕方であれば国民のコンセンサスを得られるのか。ITを防災や安心・安全に積極的に活用する場合には、個人情報の取り扱いをそろそろ決めておく必要があるとの認識だ。

 特に大都市部では、災害発生時にお年寄りや障害者への救助活動に、地域コミュニティがどこまで力を発揮できるのか不安もあるだけに、行政が何らかの対策を講じるべきなのか。その点を含めて、地方自治体において個人情報の取り扱いに関する議論をさらに深めていく必要がありそうだ。
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