コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第18回 島根県

2005/08/08 20:42

週刊BCN 2005年08月08日vol.1100掲載

 税収の減少などで厳しい財政状況に陥っている島根県。産業振興についても、総花的な施策は困難。IT産業では「2次、3次の下請け業務は海外に流れる。固有の技術を持つことで全国に通用させるか、せめて1次下請けを目指してもらいたい」(島根県商工労働部産業振興課)というのが本音だ。IT産業側でも、独自性追求を目指す企業が多い。(光と影PART IX・特別取材班)

島根地方区から全国区へ 視野を広げる情報サービス産業

■オリジナリティで全国を目指す

photo 全国区企業としての足場を固めつつあるオネスト(石修二社長)。地元の金融機関や大手メーカーの製造拠点からの受託開発で経営を安定化させつつ、ノウハウを獲得。経済産業省の「先進的システム開発実証事業」などの補助制度も活用し、2000年に全国展開の武器となる資材・部品ウェブ調達システム「e商買」を完成させた。その後、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)や日本ビジネスコンピューター(JBCC)が販売代理店となり、現在では機械機器、電子機器・部品メーカーの国内外50以上の工場で「e商買」が稼動し、中国地域ニュービジネス大賞や日本IT経営大賞などでも表彰された。しかし、石社長は現状には満足していない。日本のソフト会社で成功しているところは一握り、オネストもまだ成功といえる段階に達していない、のがその理由。

 オネストが成功への課題として重視しているのが、(1)事業領域を含めた商品ラインアップの拡充、(2)マルチOS対応、(3)認知度の向上──の3つ。「製造業に関わる分野として、e商買以外に2つの商品を作ってある」(石社長)といい、すでに商品の準備はできている。また、マルチOS化では、昨年下期にLinux版をリリースしたが、今後も対応OSを増やしていく方針。

 認知度の向上については、広告宣伝とともに、パートナーの拡充も進める。「首都圏では、日本IBMやJBCC以外にもう1社、北陸でも1社できた。広島や神戸でも候補は見えてきている」(石社長)という。さらに東京拠点の拡充も考えている。「東京にいることでユーザーがつくということがあるのも事実。現在のように営業だけでなく、企画開発部門を東京に置くということは、今年度内にもあり得る」(同)という。将来は中国に拠点を置くことも考えており、島根から日本全国、さらにアジアへと打って出るための手はずを整えている。

 システムデザイン・アクティ(石本光史社長)も、オリジナリティで全国を目指す。当初は受託開発100%からスタートしたが、現在では売り上げの7割をパッケージが占め、県内外構成比では9割が県外となっている。

 主力は、住宅メーカーや工務店、金融機関などが住宅購入者のライフプランまでを含めたコンサルティングに活用できるFP(ファイナンシャルプランニング)ツール「マイホームFP」と賃貸住宅による資産運用シミュレーションソフト「スーパーアドバイザー」。マイホームFPは、すでに2500社に販売している。

 しかし、石本社長は「資金計画シミュレーションなど、商品特性の一部しか使ってもらえていない」と、自信をもって送り出した商品の使われ方には不満も感じている。そこで、商品をより理解したうえで、活用してもらえるように取り組んでいるのが、新たなチャネルの開拓。

 ターゲットはファイナンシャルプランナーだ。現在は、松江在住のファイナンシャルプランナーと検証を進めている。「ファイナンシャルプランナーによるセミナーなど、工務店支援メニューをつけて販売する。ファイナンシャルプランナーにとっては、フィー収入にもつながるし、保険商品の販売にもプラスに作用する。いずれは、広範にファイナンシャルプランナーを組織化したい」(石本社長)としている。

 これには追い風も吹く。国土交通省は昨年夏に「住宅ローン・アドバイザー制度」という資格認定制度を創設した。消費者保護の観点から、住宅ローン全般についてアドバイスするもので、資格対象者は住宅・不動産販売業者。消費者に対する説明責任を果たすことが求められ、実践ツールにはマイホームFPがうってつけだ。

 石本社長は、「住宅メーカーでも使いたいというところが出てきた。今は、島根の会社というデメリットは感じない」という。機能の一部を提供し、地元銀行のホームページ上で銀行顧客が住宅ローンのモデルを作成できるサービスも提供しており、従来のような売り切りだけでなく、ASP(アプリケーションの期間貸し)によるサービス提供も検討する考えだ。

■自治体や企業に山陰のIDC利用を

 前記の2社とは趣を異にするが、島根から他の地域への展開を進めているのがセコム山陰(吉岡健二郎社長)。セコムグループの一員として、警備などのフィジカルセキュリティからスタートしたが、施設監視やトラフィックサポートなどでのネットワーク利用を進めるなか、情報系事業に領域を拡大している。

 「セコムは都市型のビジネスだが、当社は中山間地や離島なども抱える。地方型のビジネスを確立するには付加価値が必要だった」(吉岡社長)という。ISPや遠隔画像診断、バーチャル医療をターゲットとしたデジタルコンテンツを手掛け、新本社の建設に合わせ03年には山陰初のIDC(インターネットデータセンター)「セキュアデータセンター山陰」を開設。さらに、今年4月には鳥取市内に2か所目のIDC「セキュアデータセンター鳥取」も完成した。「山陰における情報セキュリティはこれから」という段階だけに、鳥取県の情報サービス事業者も同社の動きをじっと見守っており、山陰では存在感のあるプレーヤーになっている。

 吉岡社長は、「現在、情報系の売り上げは全体の3分の1だが、2010年には半々にしたい」という。そのためのターゲットは、京阪神など関西圏。東南海・南海地震による被害が想定されるだけに、バックアップの意味からも、自治体や企業に山陰側のIDCの利用を働きかける。同時に京阪神の情報サービス系企業とのアライアンスで、フィジカルとサイバー両方のセキュリティに関する戦闘力を高める方針。これらを実現するため、年度内には関西に拠点を置くことも計画している。「現時点でも、高い安全性を大都市のIDCより安く提供できるが、一層のネットワークコストの削減も検討している。将来は兵庫県北部に新たなIDCも」(吉岡社長)と、構想は広がる。

 「島根地方区から全国区へ」という胎動は着実に大きくなってきているようだ。
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