「5年以内に世界最先端のIT国家になる」との目標を掲げた「e-Japan戦略」がスタートしてから今年で5年目。IT政策が1つの節目を迎えるなか、BCNでは「経営革新！SMB～新フェーズを迎えるIT施策」と題し、今後のIT政策の行方を追う。第1回は今年度が最終年度となるIT投資促進税制をレポートする。

来年度から3年間の延長を検討

　経済産業省は、IT投資を促進する税制の3年間延長を検討している。2003－05年度の3か年間にわたりIT投資促進税制を実施してきたが、税制効果が明確に現れていることから同様の主旨の税制を来年度以降3年間継続する検討を始めた。IT投資促進税制は、これまでのパソコン税制などとは異なり、ハードウェアのみならずソフトウェアも含めて税制優遇の対象としたことで活用が大幅に進んだ。今後、財務省や首相の諮問機関である税制調査会などと協議を重ね、より具体的な作業に着手する予定だ。

　IT投資促進税制は、今年度までの3年間の累計で、国内経済活動の指標となる国内総生産（GDP）を約2兆円押し上げる効果があると経産省では推計している。この額はIT投資促進税制による直接的な効果を示した数字だが、1度実施されたIT投資は、企業の資産として活用され、中長期的に企業の生産性向上や競争力を高める効果が持続すると考えられる。こうした中長期的な効果を合わせると、今年度までの3年間の累計で約2兆7000億円の実質GDP押し上げ効果があり、IT投資促進税制にともなう減税総額の約2倍に達するという。


　IT投資の中長期的な効果は今後とも続く見通しで、2010年度までの8年間の累計で見ると、実質GDPの押し上げ効果は約4兆円に達すると経産省では予測する（図参照）。税制効果が明確に現れていることから、経産省ではIT投資促進税制と同様の主旨の税制優遇措置の継続を検討している。

　ただし、厳しい財政状況のなかで、こうした政策減税への風当たりは強く、現在のIT投資促進税制がそのままの形で延長されるかどうかは不透明だ。企業の設備投資は回復傾向にあり、投資が冷え込んでいた3年前とは状況が異なる。景気対策だけでは継続の理由にならない可能性もあり、新しい政策のあり方が求められている。

　経産省では、IT投資を引き出す従来の税制のあり方から、国内企業の国際競争力を高める税制への転換に着目している。もともと日本のIT投資は米国などと比べてGDPに占める割合が低い水準にあると指摘されており、その中身についても遅れが目立っているという。たとえば、企業が導入している業務システム同士の連携や、他の企業と情報システムを連携させるといった高度な活用は米国や韓国よりも「劣っている」（石川浩・経産省商務情報政策局情報処理振興課課長補佐）と指摘する。

　業務アプリケーションをサービスと捉え、それぞれのサービスを有機的に結びつけるSOA（サービス指向アーキテクチャ）やXMLウェブサービスを活用した企業間連携など、企業の競争力を高める戦略的なIT投資が不足している。来年度以降継続を検討している新しい税制では、こうした問題点を踏まえ、国際競争力を高める戦略的なIT投資の促進を主軸に据える方向で議論を進めている。

　企業のIT投資のレベルを、（1）ITを導入しても活用できない「IT不良資産化企業群」、（2）企業内の部課単位でITの最適化を図った「部門内最適化企業群」、（3）経営と直結したITを構築し企業組織全体の最適化を実現した「組織全体最適化企業群」、（4）異なる企業同士がITを活用してバリューチェーンを構築する「共同体最適化企業群」──の4つのステージに分類するとすれば、過去3年間のIT投資促進税制で達成できたのは、ステージ2の「部門内最適にとどまっている」（同）と、IT投資におけるステージがまだ低い状態にあると分析する。

　ステージ3以降へ進むには、業務改革や経営改革が不可欠である。このことから、今後のIT化のステージは、「システムが中心に語られていた時代」から「ITを活用した経営革新の時代」へと大きく様変わりしていくことになる。新しい税制では、ステージ3以降の高いレベルへと国内企業を導く政策を柱の1つにする方向で検討している。また、証券市場において企業情報を適正に開示する内部統制の強化にともなう情報システムのつくり替えや、情報セキュリティ対策など経営リスクを軽減するためのIT投資も求められている。

　今後のIT投資動向を大きく左右する政策だけに、実現を期待する声が高まっている。（安藤章司）