総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>35.北海道銀行(下)

2005/07/11 16:18

週刊BCN 2005年07月11日vol.1096掲載

 北海道銀行の遠隔相談システムは、札幌のベンチャー企業システム・ケイ(鳴海鼓大社長)が開発した「ビジュアルコミュニケーションシステム」を採用している。システム・ケイは、ADSLや光ファイバーなどブロードバンドネットワークを使い、映像や音声を交えたコミュニケーションを実現する分野へ進出したことで売り上げを大幅に伸ばしたベンチャーだ。

ビジュアルコミュニケーションで業績拡大

 2002年頃まで、顧客企業などの要望に合わせてソフトウェアを開発する受託開発が売り上げの中心を占めていた。その後、独自に開発したビジュアルコミュニケーションシステムの売り上げが急速に伸びた。今年度(05年9月期)の連結売上高は前年度比約50%増の12億円に達する見通しで、売上高全体に占めるビジュアルコミュニケーションシステム関連の比率は約7割まで拡大する見込みである。顧客数も大幅に増えた。受託ソフト開発が中心だった頃の顧客数は20-30社にとどまっていたが、今年度はビジュアルコミュニケーションシステム関連のユーザーを中心に顧客数が500社以上に増える勢いである。

 ビジュアルコミュニケーションシステムとは、ブロードバンド網を活用して遠隔地と映像や音声をやり取りできるシステムのことで、現在需要が急速に伸びている。ブロードバンドが普及する以前は、同軸ケーブルなどを使ったアナログ通信で映像や音声をやり取りする方法が中心だった。だが、同軸ケーブルを敷設したり、映像や音声を記録したりする設備投資が膨大にかかることから用途が限られていた。ブロードバンドを使えば回線を新たに敷設する必要がなく、インターネットに接続しているパソコンや携帯電話などから自由に映像や音声を閲覧できる。やり取りしたデータは汎用的なサーバーやパソコンで記録できる。

 近年、ブロードバンドに接続されたカメラが、まるで独立したネットワーク装置のように機能し、遠隔地からカメラの向きやレンズの倍率を自由操作できるなど双方向のコントロールが可能な「ネットワークカメラ」が広く普及しつつある。矢野経済研究所によれば、ネットワークカメラの国内出荷台数は04年度(05年3月期)約5万台と推測しており、05年度、06年度とともに前年度比約60%増で出荷台数が増えると予測。「将来はあらゆる分野にネットワークカメラが普及する」(矢野経済研究所)と分析している。

 システム・ケイは、こうした市場の動きに乗る形で、ブロードバンド接続型のカメラの設置台数を増やしている。北海道銀行の遠隔相談システムのカメラをはじめとして、3年間で企業・団体など約100社へ延べ1000台のカメラを設置した。このうち約400台は金融機関が遠隔相談システムなどの用途で導入したという。システム・ケイでは「ビジュアルコミュニケーションシステムに対する需要が旺盛」(鳴海社長)であることから、今後3年間で3000台のカメラを設置していく見通しを示す。

 ビジュアルコミュニケーションシステムを展開していく上で、システム・ケイの競争優位性となっているのが複数のカメラを効率良く的確に制御する技術である。同社では、1台のサーバーで最大500台のカメラを制御するシステムを独自に開発。カメラを製造するハードメーカーは多いが、「大量のカメラを一元管理する本格的なシステムはほとんどなかった」(同)ことから、独自での開発に踏み切った。

 個人や小規模事業所では数台のカメラを管理するだけで済むが、全国に店舗を持つ飲食店や駐車場・洗車場の運営会社、国内外に工場を展開する製造業などでは、数百台単位のカメラを一元的に管理する必要がある。システム・ケイが開発したカメラ制御システムを使えば、効率的にカメラ管理が行えるようになる。また、顧客の要望に応じたカスタマイズにも対応できるのが大きな強みとなっている。

 今年1月には、複数のネットワークカメラに1回の認証でログインできるシングルサインオンを実現するシステム「キーマネージャー」を新しく開発した。ネットワークカメラはインターネット上に設置するため、認証さえクリアすれば誰でも使うことができる。悪意があるユーザーがインターネット上に設置してあるネットワークカメラを“盗み見”することを防ぐために、ネットワークカメラには厳重な認証システムが組み込まれており、この認証をクリアしないことには本来の持ち主であってもカメラを使えない仕組みになっている。

 例えば、インターネット上に100台のカメラを設置した場合、個別にIDとパスワードを入力してカメラにログインする必要があるなど使いづらい面があった。従来は、カメラ同士をVPN(仮想私設網)などで結び、閉鎖されたネットワークを構築した上で、カメラの認証機能を無効にして使っていたが、今回、開発したキーマネージャーを使えば、VPNを構築したり、カメラの認証機能を無効にしなくても、1回のログインですべてのカメラの認証をクリアすることができる。

 今後は国内外にビジュアルコミュニケーションシステムを拡販していくことで、3年後の08年9月期には連結売上高50億円を目指す。市場の動きを敏感に察知し、需要を先取りするオリジナル商品の開発で業績を伸ばしている事例である。(安藤章司)
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