視点

ソフトウェアづくり学のすすめ

2005/07/04 16:41

週刊BCN 2005年07月04日vol.1095掲載

 現在の工学といわれる学問分野には、機械工学や電気工学など伝統的なものから、時代の流れに即応した先端的なものまで多様な領域が含まれている。

 工学とは平たく言えばものをつくるための学問であり、英語ではエンジニアリングという。日本の大学における工学の教育研究は歴史もあり、大きな業績を残してきた。それが日本の製造業を世界のトップレベルに押し上げる原動力になっている。

 ソフトウェアをつくるための学問はソフトウェアエンジニアリングであり、日本ではソフトウェア工学と呼んでいる。ところが、工学というにもかかわらず、工学部にはソフトウェア工学科というようなまとまった教育研究の組織はほとんどない。したがって、IT教育はハードウェアや理論面が中心になっている。日本のソフトウェア産業が製造業に比べて極めて脆弱なのはここに原因がある。

 経済産業省などの調査によると、日本のIT業界で働いている人の5割強がIT教育を全く受けていないのだそうだ。IT業界にはハードウェアの分野もあるが、そこでは電子工学などを学ばないと働けないから、IT教育を受けていない人が働いているのは、ほとんどがソフトウェア産業ということになる。そんな人たちにソフトウェアづくりを委ねなければならないところにソフトウェア業界の苦悩がある。

 工業製品のように品質と完成度の高いソフトウェアをつくるには、何としてもソフトウェアエンジニアリングの力を借りる必要がある。ソフトウェアエンジニアリングの内容は、米国の電気情報系の学会でその核になる部分を定めている。それらはソフトウェアの要求、設計、構築、テスト、保守、管理、品質、ほか全部で10の項目からなっている。

 これらの内容を学部や大学院できちんと教える必要があるが、日本ではエンジニアリングというと典型的な理系というイメージが強い。しかし、ソフトウェアづくりでは文系の人も十分な能力を発揮するし、文系の視点も有用である。

 ソフトウェアエンジニアリングを文理融合領域と考え、文系と理系という枠を越えて多様な人材に門戸を開く新しいソフトウェアエンジニアリングの創成が望まれる。それは「ソフトウェアづくり学」というような呼び方をするのがふさわしいかもしれない。ソフトウェアづくり学に特化した学科や学部、あるいは大学院専攻の創設が待たれる。
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