コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第13回 中国(1)

2005/07/04 16:05

週刊BCN 2005年07月04日vol.1095掲載

 全国の約6%に当たる経済活動を展開している中国地方。一時は、構造的な問題を抱えていた中国地方の産業も、東アジア経済の活発化で、素材産業も息を吹き返したほか、輸送用機器や電機などの産業も好調で、情報サービス産業にとっては、追い風となっている。(光と影PART IX・特別取材班)

“元気な企業”多数立地で追い風 地域特性への対応がカギ

■中国経産局、「シリコンヒルズ構想」主導

 「平成の(市町村)大合併の影響もあり、中国各県の情報産業は厳しいと言いながらも頑張っている。ただし、全体としてソフト産業が弱いのは事実で、オフショア開発への対抗も現時点では容易ではない」

 経済産業省中国経済産業局地域経済部の末国博文参事官(情報産業担当)の現状分析だ。これまでは大手ベンダーの下請け業務を行っていた企業も多く、独自性を有するところは必ずしも多くない。情報産業の振興を目指すには、全体的な底上げが必要。そして、そのなかから「強み」を持つ企業が育ってきてくれる必要がある。

 しかし、情報産業だけをターゲットに底上げするというのは困難。中国経済産業局では、中国地方が比較優位性を持つ産業の技術やノウハウを地域の大学や研究機関と結びつけることで、裾野に広がりのある新たな産業の創出を目指している。そして、情報産業も包含される取り組みが「シリコンヒルズ構想」だ。

 ソフト産業についての集積が少ない中国地方だが、ハード分野については、すでに産業の集積がある。シャープが広島県内で東広島、福山、三原の3か所に事業所を展開しているほか、DRAM専業メーカーのエルピーダメモリも、東広島に中核拠点の広島エルピーダメモリを置く。また、岡山県の井笠地域や広島県の福山には、半導体製造装置関連の企業集積もある。2004年3月から始動した「シリコンヒルズ構想」は、これらと大学・研究機関が有する技術的なシーズを結び付けていこうというものだ。

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 「05年度は、次世代FPD(フラットパネルディスプレイ)の開発を軸に活動を展開する。市場拡大が見込め、裾野も広いため、地元企業の中にもFPD分野を狙うところは多い」(末国参事官)と言う。欧州を中心に、工業製品の環境対応の流れが強まっていることを踏まえ、リサイクル・リユース・リデュースの「3R」を切り口とした新たな技術開発に取り組む考え。山口東京理科大学液晶研究所の技術シーズの活用を探る大学発ベンチャー、ナノオプト研究所をコアとして、秋口にもキックオフイベントを開催する。さらに、大企業から地元企業まで100社程度の参加を得たうえで、テーマごとにグルーピングし、技術シーズの検討会を立ち上げる計画。

 「FPD開発に取り組むことで、化学から機械、電機、情報といった幅広い産業が参加できる。いままで、東京の企業にもって行かれていた地域の大学・研究機関のシーズを地域で生かす」(末国参事官)のが狙いだ。もちろん、個々の技術はあっても、それをまとめたことはなく、他の領域と結びつける人材も十分とは言えない。そこで、「シリコンヒルズ構想」のなかでは、人材育成プログラムも組み込んでいく。経済産業省が6月初旬に発表した36の産学連携製造中核人材育成事業の1つに、広島大学による「半導体関連産業におけるLSIおよび応用システムの設計・製造に係る中核人材育成事業」が選定された。 半導体製造装置メーカーなどが主体となるが、半導体からセット(完成品)まで手掛けることになるため、組込み系ソフトなどの人材育成も不可欠。当然、支援の対象に入ってくることになる。

 ただし、こうした動きは、瀬戸内海側の山陽道が中心となっている。日本海側の山陰道については、明快な施策は見えていないのも事実だ。末国参事官も「山陰道は、大手メーカーの工場などはあるものの、一貫生産のため工場内で完結する場合が多く、下請けの集積も少ない。産業振興の面で、山陰道は永遠のテーマ」と指摘する。

■企業戦略に影落とす「南北問題」

 中国地方の「南北問題」は、大手ベンダーの戦略にも影響を与える。富士通の下島文明・中国営業本部長も「山陽ベルト地帯に立地する企業は、大手・準大手を問わず景気が良くなっている。ここ2、3年は自治体などの公共関係が中心だったが、民間のシステム見直しも増えてきており、現在はそれらの企業に対する提案の最中」と指摘する。中国地方の企業の好調の理由について、富士通中国システムズの藤田栄保社長は「一般的な知名度は低いものの、特定の分野では圧倒的な知名度とシェアを持つナンバーワン企業やユニークな企業が多い。しかも、国内市場だけでなく、海外を見据えた事業展開を目指すところが増えている」と分析する。

 日立中国ソリューションズの古林正明社長も「ソフトなどの情報投資は04年度に急回復し、05年度も投資意欲は堅調。輸送用機器メーカーが好調なことに加え、山陽3県で事業を展開する素材メーカーも好調。受注に結びつくかどうかは別としても、企業に元気があるのが一番」と言う。同社の場合、04年度に70社を超える企業との新規取引を開始した。「人事・給与や販売管理など、中小企業の一部システムからではあるが、新規受注を獲得できたことが大きい」(古林社長)と手応えを感じている様子。

 もっとも、地域経済が活発であっても、地域特性という要素が入り込んでくる余地はある。ナンバーワン企業やユニークな企業が多いということは、群れを成さない一匹狼的な企業も多いということ。情報化の推進についての旗振り役はなかなか現れない。中部圏とは異なり、地域経済全体の活力を高めようという動きは出てきづらい。

 また、「支店・支社の街であり、ビジネスが遅い。これは地場の企業も同じ。また、顧客企業の会社の規模がちょうど難しい規模。全く同じビジネスであっても、東京でやった方が断然楽」(業界関係者)との声が聞かれる。さらに「同じ繁華街でも、(博多の)中州なら、お客様を連れて行くとそのお客様を大事にしてくれる。(広島の)流川では、お客様をお連れした馴染み客の方を大事にする」というたとえ話があるように、多少の閉鎖性も中国地方の特色としてあるようだ。

 必ずしも「ナショナルブランド」が通用しない中国地方。加えて、山陽道と山陰道の経済環境の違いもある。大手ベンダーにとっても、中国地方の戦略の舵取りは容易でない。ただし、それだけに、地場の情報産業が活躍できる場も残っている。
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