総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>33.三和メッキ工業(下)
2005/06/27 16:18
週刊BCN 2005年06月27日vol.1094掲載
直接受注を貫きECを成功へ導く
中堅・中小企業が自前の製品やサービスをインターネットで販売する時、「成否を決めるのは経営者の考え方にある」(同)と、サーフボードでは分析する。既存のビジネスモデルや業務フローを変えずにECサイトを立ち上げれば、電子メールや電話などでEC特有の顧客対応が疎かになり失敗する。ましてやECサイトの制作や運営すべてをサーフボードのような外部のウェブ制作会社に丸投げする方法では、責任の所在が曖昧になりやすく、失敗に終わる危険性が高いという。サーフボードではECサイトを受注する時、まず顧客企業の経営者と直接会って、ECを成功させるためのビジネスモデルの変革や業務フローを見直す心構えがあるかを見極める。自社の売り上げを優先して受注をむやみに増やすことはしない。「顧客企業のEC事業の成功をより確実なものにするには、まず顧客自身が変わらなければならない」(同)と、顧客の成功を最優先に位置づける。
昨年度(2005年4月期)の売上高は前年度比約2割増と拡大基調で推移しているものの、「顧客の心構えを考慮せずに受注すれば、売り上げはさらに伸びる」(同)ことは承知のうえで、売り上げをセーブする代わりに、成功する可能性の高い顧客へ経営資源を集中する方針を貫く。失敗事例を増やすよりは、すべての顧客のEC事業を成功させる方が、追加投資が期待でき、長期的に見れば安定した成長が見込めると考えるからだ。
三和メッキ工業からECサイト開設の相談を受けたのは00年頃だった。三和メッキ工業は、技術力で定評があり、00年には品質管理の国際規格ISO9000シリーズを取得、02年には環境管理の国際規格ISO14000シリーズを取得した。品質管理の規格を取得するにあたり、メッキ加工の手順書を、マイクロソフトの図形制作ソフト「ビジオ」を使ってデジタル化。社員間での情報共有や文書管理の効率化に役立てるなどITを積極的に活用した。
作業現場に設置したパソコンから模式化された分かりやすい手順書を参照することができ、経験が浅い若手社員の作業ミスを減らすのにも大いに役立った。
高い水準のメッキ加工サービスを提供できる技術力と、デジタル化に取り組む熱心さ、ECを活用したビジネスに対する経営者の意欲などを総合すると、「この会社のEC事業は成功する素地がある」(田嶋社長)と手応えを感じた。三和メッキ工業では04年2月に個人顧客向けウェブサイト「必殺!めっき職人」を新設し、05年4月に法人顧客向けウェブサイトを全面リニューアルした。
ウェブのコンテンツは随時更新し、「年に1回は大幅リニューアルを行う」(三和メッキ工業の清水栄次常務取締役)と、陳腐化しないよう、常に新しい情報を発信するサイト運営を心掛ける。コンテンツの更新作業や顧客との電子メールのやり取りなどを管理するシステムは、サーフボードが独自に開発したECサイト用ウェブアプリケーションサーバー「ウェブクルーザー」を採り入れた。ウェブクルーザーを使えば、コンテンツの更新作業が簡素化できたり、顧客とやり取りした電子メールの履歴なども手間をかけずに管理できる。
ウェブクルーザーは、サーフボードが01年4月に製品化し、これまで150社余りに納入してきた。主にASP(アプリケーションの期間貸し)方式で利用できるため、顧客企業はサーバーを自前で管理する必要がない。商品や顧客の管理、購買履歴、ポイント制など、オンラインでの決済・購入に必要な機能を網羅した“ショッピングカート機能”もあり、本格的なECサイトのプラットフォームとして活用できる。
ECサイト専用のウェブアプリケーションサーバーを独自に開発したことで、サーフボードは、ECサイトの基礎的な開発に多くの時間を取られることがなくなった。EC事業を成功させるための経営コンサルティングやデザイン、顧客企業の商品やサービスの特性に合わせたマーケティング戦略の立案などに経営資源を集中できる体制を強化した。同業のウェブ制作会社が、プログラムの開発に時間を取られることが多いなか、サーフボードは顧客のEC事業を成功に導くコンサルティングに注力することで支持を得た。
近年では同業他社やシステムインテグレータ(SI)などからウェブクルーザーのライセンス購入に関する引き合いが急増していることから、サーフボードではライセンス単体での販売にも応じている。
昨年度までは売上高全体の約半分が福井県内からの注文が占めていたが、ECサイトの成功事例が増えるにともなって、県外からの受注が増え始めた。今年度(06年4月期)は、売上高全体のうち約7割が福井県外からの受注が占める見通しだ。顧客企業の潜在力をECサイト上に最大限引き出すためのコンサルティングに重点を置くサーフボードの姿勢は、“脱・下請け”を目指すウェブ制作会社やソフト開発会社とっても良い参考になる。(安藤章司)
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