コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第11回 兵庫県

2005/06/20 20:42

週刊BCN 2005年06月20日vol.1093掲載

 大阪を基盤とする情報サービス産業と市場でバッティングすることも多い兵庫県。業界関係者の中にも「大阪市場と兵庫市場は一体という意識があり、互いに侵食し合う状況がある」と指摘する向きもある。大阪との違いを明確にする、ということをポイントに、新たな動きが始まっている。(光と影PART IX・特別取材班)

兵庫の仕事は兵庫で、課題抱えつつも新たな胎動

■情報セキュリティ研究で米大学の日本校誘致

ジャレッド・コーン学長 6月7日、神戸市の兵庫県公館に多数のIT産業関係者が集まった。コンピュータ科学などの分野で先端的な研究を展開する米カーネギーメロン大学(ペンシルベニア州ピッツバーグ市)の日本校開学記念式典に出席するためだ。

 9月から授業を開始する「情報セキュリティ研究科」のプログラム修了者には米国本校から修士学位が直接付与される。「情報社会の到来にもかかわらず、日本で情報セキュリティを担う人材があまりにも少ない」(井戸敏三・兵庫県知事)と進めた計画がようやくスタートする。カーネギーメロン大学のジャレッド・コーン学長も「情報セキュリティ分野では、米国外に初めて教育機関を置く。兵庫県や神戸市も情報セキュリティを最優先分野に位置付けている」と、国際的に通用する情報セキュリティ分野の教育機関を目指す考えを示した。

 もっとも、式典出席者の中には、複雑な思いを持つ者がいないわけではない。せっかくの機会を兵庫県の情報産業振興にもっと結びつけることができなかったか──。地元の情報産業従事者が参加しやすい仕組み、あるいは同大と連携する形で日本における情報セキュリティの新たな権威を兵庫に組織する、などといったことだ。

 兵庫県内の情報サービス産業においても、大手ベンダー中心に情報化が進められていることへの危機感は強い。もちろん、行政サイドも同じ思いを共有している。そこから発足したのが任意団体である「ひょうごeサポート倶楽部」。県からの直接受注のほか、民間案件の相互融通などを目的に、2004年4月にスタートした。同倶楽部のホームページのトップには「大手ベンダー企業に負けない技術力と行動力で、兵庫県内需要を兵庫県の企業でやり通します」と謳っている。

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 「県発注案件の80%は他県の企業に流れている。これまでは大手ベンダーがすべて自社製品でまかなってきたが、オープン系になり、大手でも自社製品でないものも提供しなければならなくなっている。メンバーの協力によって、最良のシステムを構成し、開発段階から入っていけるようにしたい」とは、同倶楽部会長の前田文雄キャスター代表。県発注案件の共同受注などの実績はあがっていない。

 同倶楽部副会長の中村守男・サルード代表は、メンバー企業が県の発注元との接点をこれまでもっていなかったことも理由の1つと指摘する。その一方で、「兵庫県の電子入札に応札する事業者のためのネットワーク構築やセットアップ、利用者登録、操作支援などを行う『電子認証サポート』では20件近くの実績をあげるところまできた」とし、「県発注の案件も、今後はサービス中心となる。顔の見えるサポートができることが、行政担当者にとっても重要」と倶楽部の方向性に自信を示す。

 しかし、こうした流れをより大きなものとするためには、組織をより強固にしていく必要もある。前田会長も「県発注案件に参加するためにジョイントベンチャーをどう組めばいいか、などの勉強もやらねばならない。場合によっては、組織自体の見直しも必要」と指摘する。

 中村副会長も「業種を絞った県内企業へのセミナー実施などの教育面で、産業活性化センターと共同できれば」と指摘する。法や制度改正にともなって業務の電子化を迫られている業界は少なくない。行政にとっては、そうした業界も同倶楽部などの情報サービス産業も振興の対象であり、双方にメリットのあるサイクルを見出せるのではないかということだ。

■地方でビジネスモデルを水平展開

 個別企業でも、独自の取り組みを図っているところはある。神戸デジタル・ラボ(KDL)は、オープンシステム開発を柱とする独立系企業。永吉一郎代表は「売上高は今年9月期で12億円と大きくはないが、足を運べる範囲で元気な企業とビジネスを展開しているため、一般的な業界動向に左右されるわけではない」という。直接取引のエンドユーザーは100%県内企業。「足を運べる範囲内」と限定する分、開発に着手する前に、顧客企業の業態を徹底的に研究し、開発から運用までコミットする。 「必要な経費は認めてもらうし、見積りも通る。地方には営業部隊しかいない大手ベンダーと違い、多少高くついても、品質とフットワークの良さを認めてもらうことは可能」(永吉代表)という。

 もちろん、大手ベンダーやシステムインテグレータ(SI)からの仕事も受けるが、特定の企業と深い関係は持たないという。「独自営業で大手とバッティングすることも多いが、その結果として、大手からもオープン系のプロと認められるため、発注があった場合も単価はいい」(永吉代表)という。経常利益率は8-10%をコンスタントに確保し、その分は開発費やスタッフの成果報酬に回す。

 各社が頭を悩ます人材確保については、大手からの中途入社も少なくない。「スキルは重要だが、ユーザーが何を求め、どう実現するかを考えることが第一。知識のみではユーザーを救えない。関西では大手も縦割りの組織となり、ユーザーとの関係が希薄になる。それを嫌い、当社に来る人も多い」(永吉代表)と分析する。

 事業拡大の戦略も、この「ユーザーを救う」というシンプルなコンセプトをベースに置く。ユーザーに理解してもらえるだけの付加価値をつけることが確実に収益に結びつく。しかし、足を運べる範囲は限られる。そこで、同社のビジネスモデルの水平展開を図る。同じような業態の会社とアライアンスを組み、KDLのビジネスモデルと文化を根付かせる。「悩みを抱える同業者は少なくない。東京の市場では難しいが、地方なら当社のビジネスモデルの水平展開は可能」(永吉代表)と言い切る。2、3年内に関西のオープンシステム市場(開発・運用で約3000億円)の1%は確保したい考えだ。
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