視点
テレビ局が邪魔するIP放送
2005/06/13 16:41
週刊BCN 2005年06月13日vol.1092掲載
一方、海外在住の日本人のために、国内のテレビ放送を録画し、パソコン間で転送するサービスの録画ネットが、NHKはじめテレビ局から違法な録画である、と訴えられた事件で、裁判所の仮処分決定が出て現在サービスを停止している。
4月と5月に開かれた情報通信政策フォーラム(ICPF)のセミナーで取り上げられ、栄村については当事者である長野県協同電算の佐藤千明さん、録画ネットでは運営元のエフエービジョンの原田昌信さんが講演した。
栄村のケースは総務省、文化庁とも著作権法上の問題はない、との立場を表明しているものの、テレビ側はいまだに再送信に同意していない。録画ネットは顧客のパソコンを預かるだけのハウジングサービスであり、在宅する個人の私的複製と変わらない、との主張が裁判では認められず、カラオケサロンと同じような代行サービスである、とのテレビ側の主張が認められ、仮処分決定が出た。いずれのケースも恩恵を受ける人はいるのに、権利侵害など実害を受ける人や企業はどこにもいないのが特徴である。
テレビ局の背後にいる権利者やコンテンツ提供側との契約が制約になっている可能性はあるが、通信と放送を融合させた新サービスはテレビ側の都合で相次いで、商用化停止や裁判に追い込まれている。
テレビ側の態度変更は当分期待できないと、ネット側が自ら映像コンテンツを制作する動きも出てきた。ヤフーがNHKエンタープライズに委託して制作したドキュメンタリー「インターネットの夜明け」が5月23日からネットで放映され始めた。テレビ同様無料で視聴できる。事前に権利処理をすれば、こういうモデルも可能であることを示す実験である。スポンサーの広告で制作費を回収するビジネスモデルで、これもテレビと同じである。経済的に成り立つかどうかは未知数だが、CS放送の世界では、地上波よりはるかに安い制作費で番組を制作している。こうしたノウハウがネットに流れてきたら、ネット側のコンテンツが一気に優位に立つことも考えられる。たいした理由もなくネット配信を拒否しているうちに、地上波テレビの土台そのものが崩壊していく。
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