e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>39.電子申告体験記─法人税編

2005/06/13 16:18

週刊BCN 2005年06月13日vol.1092掲載

 国税の電子申告が全国展開されて1年が経過した。昨年2月に先行してスタートした名古屋国税局管内では2度、それ以外の地域でも個人、法人ともに電子申告できる機会が1度は訪れたことになる。筆者の個人事務所でも3月期決算の有限会社として法人税申告を顧問税理士A氏と協力して、実際に電子申告で行ってみた。(ジャーナリスト 千葉利宏)

「顧問先企業がすべて、千葉さんのように対応してくれるようになったら、好きなゴルフ場の近くに引っ越しても仕事ができるよ」――。電子申告が無事に終わったあと、冗談交じりにA氏はそんな感想を漏らした。A氏は、自宅にB社製会計システムを導入して事務所を経営する50代の税理士で、決算処理を依頼するのは今年で4期目だ。当初は帳簿のつけ方さえ判らずに、A氏にほとんど面倒を見てもらったが、2期目からB社システムとデータ共有が可能な会計ソフトを購入してマニュアルと首っ引きでパソコンによる帳簿作成を開始。まずは電子申告を始める以前に、経理のIT化で悪戦苦闘してきた。

 一方、A氏も地元中小企業を中心に多くの顧問先企業を抱え、事務効率化のために専用システムも導入していたが、従来の紙による業務スタイルから脱却できているとは言い難かった。顧問先の多くがまだ帳簿や伝票などを紙で取り扱っていて、それをOCR(光学式文字読取装置)で読み取るか、手入力するかで対応している様子で、私への連絡も、電子メールではなくファクシミリ。心配になって早い段階から電子申告への対応準備を要請。A氏も、最近になって帳簿データを電子メールに添付してやり取りするまでにITスキルを向上させてきた。

 電子申告の事前準備は、電子署名となる公的個人認証は取得済みだったが、開始届出書の提出には地方法務局で会社の登記簿を取得するなどで半日を要した。A氏も電子署名は日本税理士協会連合会が認証局となったものを取得済みで、同様に開始届出書を提出、電子申告ソフトの導入はB社側で対応した。

 電子申告の当日は、私がA氏の事務所に公的個人認証の入った住基カードと、利用者識別番号が記載された税務署からの通知書を持参して出向き、B社の担当者も立ち会うことになった。B社システムで作成済みの申告書類データを、これまではプリントアウトして税務署に提出していたわけだが、今回は自動変換して電子申告用データとして電子申告ソフトに読み込む。これに税理士の税務代理権限証書のデータを添付して私にバトンタッチ。利用者識別番号を入力して電子署名を付け、同じくA氏も利用者識別番号を入力し電子署名を付けて送信ボタンをクリック、電子申告は無事に終了した。途中、1か所だけ操作に戸惑うところもあったが、B社システムの使い勝手の問題で、電子申告そのものには全く問題はなかった。

 実際に電子申告を体験してみて、納税者である私以上に、税理士A氏のメリットが大きいことが判った。これまで紙中心のビジネススタイルを続けてきたA氏も、私と電子メールによるデータのやり取りや電子申告を通じてITの利便性を改めて実感したようだった。法人税申告の場合、別途郵送しなければならないような添付書類もほとんどなく、開始届出書も1度提出すれば次回以降は不要になり、最初の準備さえクリアすれば手間もかからなくなる。多少、心配なのは、有効期限3年の公的個人認証など電子署名の更新手続きぐらいだ。

 ただ、納税者のメリットは申告手続きだけではあまり感じられないかもしれない。紙による手続きでは最後に申告書類に捺印するためにA氏の事務所に出向いていたが、電子申告でも現時点では電子署名するために出向く必要がある。この問題は、納税者の公的個人認証による本人確認を税理士にも認める法改正が検討されており、いずれ解消される方向にある。そこまで実現するとA氏が冒頭に言ったように、自然に恵まれたゴルフ場の近くに引っ越してもITを使って仕事することも夢ではないだろう。納税者にとっても税理士の選択肢が大きく広がる可能性が出てくるわけで、そこに最大のメリットが潜んでいるのかもしれない。
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