コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第10回 滋賀県
2005/06/13 20:42
週刊BCN 2005年06月13日vol.1092掲載
地の利を生かし、まず中部圏 さらに全国展開を目指す
■規模が限られる県内マーケット県域の中央部に琵琶湖が広がる滋賀県は、経済や産業の面でも、その琵琶湖抜きには語れない。
地域情報化のための地域間バックボーンとして、2002年から運用を開始した高速回線「びわ湖情報ハイウェイ」。琵琶湖を取り囲む形で県内を結ぶが、容量に余裕があるため、03年11月に民間にも無料開放した。しかし、公益目的やモデル性、先駆性などの条件を付けたため、利用者は6件にとどまっている。「県民がITの恩恵を受けるとともに、新しいサービスが生まれるきっかけになれば」との意図は達せられていない。滋賀県では「今後、条件の見直しも含め、利用の促進を検討していく」(県民文化生活部IT推進課)方針だ。
転換点を迎えつつある情報サービス産業でも、琵琶湖の存在が作用しているところもある。
「地域ナンバーワン」と「県外オンリーワン」という2つの政策を基軸とする日本ソフト開発の売上構成比は、現在のところ県内65%、県外35%。大手メーカーの生産拠点の開発案件が大手ベンダーに流れる傾向はあるものの、工場単体で必要となる開発案件や県内中小企業向けのERP(統合基幹業務システム)などの受注は、現在のところ堅調で、受注残も抱える。しかし、藤田義嗣社長は「ここにきて(IT投資の)動きが読めなくなっているのも事実。県内マーケットは、規模が限られるので、戦略商品が立ち上がることが重要」と指摘する。 「よろずや」的性格で地域ナンバーワンを維持しつつ、県外ではオンリーワンを認知させる。これにより、県内外の売上構成比を50対50とすることが、藤田社長の理想だ。
その戦略商品の1つが「環境マネジメントシステム運用・管理ツール」。琵琶湖の水質保全のための排水浄化からスタートし、全国800か所以上の施設で導入されている「水処理施設遠隔監視・運用管理システム」のノウハウを環境事業にフィードバックしたもので、滋賀県の特性を生かした商品といえる。
他にもマルチメディア支援ソフトなど、戦略商品の整備を進めるが、「斬新で、しかも、時間軸での開発競争に巻き込まれないような領域」(藤田社長)をターゲットとしていく考え。将来的に隣接する中部圏の市場を本格開拓するに際しても、オンリーワン分野を前面に出した「特色ある参入」が有効に作用するとみているようだ。
中部圏など、関西圏以外への意識を高める企業は他にもある。データエントリー事業から出発した大津コンピュータは、5月に名古屋地区担当の取締役を新たに置いた。本社のある大津市からの名古屋支社の営業活動をフォローすることは可能だが、顧客に対して「中部圏へのコミットメント」を明確に示すことが必要との観点からだ。
「売上構成比の半分は滋賀県内だが、今後も維持するというのは難しい。新しい施策が必要」というのは西山隆規専務。当面は、滋賀を含めた関西は「守り」を固め、中部圏や首都圏では営業面で「攻め」に打って出る方針。
受託開発については、現状では1チーム体制のため、検収の時期により収益が安定しない。このため、3チーム体制とし、収益構造の安定化を図る。また、技術者派遣についても、運用中心から開発中心に比重を移す。これを裏付ける人材面の措置としては、関西や九州の拠点からの人材シフトに加え、中国や韓国などの企業と連携し、充足を図る。
「外国人の活用では、かつて失敗したこともあったが、ノウハウも得た。本人の希望するキャリアプランに応える仕組みをつくったうえで、海外企業とのルートを再構築し、9月から機能させるようにしたい」(西山専務)考え。
一方、新たな収益源の確立に向けた動きも始動している。法制度の改正にともない、これまでなかった市場が形成されることがある。同社では、環境関連分野で専門企業と連携してウェブベースのシステム開発に取り組んでいる。「まだスタンダードが確立していない領域。これまで当社ではパッケージ販売を手掛けていなかったが、パッケージ化も視野に置いている」(西山専務)という。従来の製造業中心の顧客基盤からの脱却にもつながる可能性もある。あらゆる面において、同社の構造改革が進行している。
■地方から全国にITビジネス発信
老舗企業の構造改革の一方で、ニューカマーの胎動もある。97年設立のヴォイスは、インターネットの利活用にターゲットを置く。永本哲夫社長も「滋賀県にあってもインターネットがあればビジネスができる。地方からでも全国にITビジネスを発信できることを示したい」という。オンラインショップの販売・顧客管理ソフト「おてがる通販」は、ネット直販のみで3年間で2500本を販売、オンラインショップの出店・一括管理ソフト「おてがる出店」は1年で100本を販売した。
「先端技術を使うわけではない。また、市場ニーズも東京ではなく、元気な地方企業にある」(永本社長)とし、本社を滋賀に置くデメリットは感じていない。開発のための人材面でも、大阪や京都から滋賀へのUターン希望者もあり、「コアの開発は滋賀でも十分にできる。遊びや引き抜きといった余計な誘惑がない分、きちんと成長する」という。
もちろん、事業が成長する過程では、不足する部分もある。それは他社との連携で補う。オンラインショップ事業は、従来の個人商店や小規模企業だけでなく、規模の大きな企業でも積極的に手掛けるようになってきた。このため、法人向けの販売・顧客管理ソフトをウェブベースで開発中。今度はパートナーと組む。
「いい商品と実績があれば、必要に応じて手を組むことができる。どこにいても、新しいビジネスの進め方があるはず」(永本社長)とは、地方の情報サービス事業者にとって力強い言葉だ。
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