視点

「ものづくり」へのこだわり

2005/05/30 16:41

週刊BCN 2005年05月30日vol.1090掲載

 デジタル時代のあるべき「ものづくり」の姿とは何か。私は2つの切り口があると思っている。その時々の流行に合わせ、キャッチーな機能をどんどん盛り込んでいくのと、モデルチェンジを重ねても明確なコンセプトを守る──の2つだ。後者の典型を最近モデルチェンジした2つのパソコンに見た。松下電器産業のレッツノートと、旧IBMのシンクパッドX40だ。

 どちらの製品にも、「ものづくりには絶対にこだわりがなければならない」という強烈な意思が貫徹している。市場で売られる製品なのだから、ある期間を経たらモデルチェンジは必然だ。しかしこの2つは、世代が変わっても製品コンセプトは見事なまでに統一、貫徹されている。英語で言うなら「コンシステンシー(継続性)」である。 レッツノートのこだわりは「携帯機器としてのあり方」だ。電車の中や仕事先で使うことを考慮した軽薄短小なものづくりは一部に熱狂的なファンを生んだ。今回のモデルチェンジではより頑丈にしたが、それも携帯使用の環境を改善するため。やることが一貫しているのである。レッツノートの担当者が言った。「外見も変えたいという変化への誘惑は常にあるが、商品企画的にはここが我慢のしどころ。とにかく軽くて丈夫で、しかも長時間駆動する。そういう実用的モバイルにこだわりたい」。

 一方のシンクパッドのモデルチェンジも、その記号性、操作性が統一的に継続されていく様は見事としか言いようがない。「外観はまったく変えていない。もちろんキーボードも同じ。大きさ、厚みも同じ。」と企画担当者は説明を始めた。「小さく、薄く、それでいて機能が充実し、最高の道具であるというシンクパッドのコンセプトはまったく変えずに、中身の高性能化に挑戦した」。

 ユーザーインタフェースが完成の域に達した製品をどうモデルチェンジするか。それは、ユーザーと触れる部分は変えずに中身を格段に良くする「成熟化手法」が正解である。ハイエンドオーディオの世界ではこのやり方で高品位なイメージそのままに音質が断然向上することが多い。シンクパッドもまさにその領域に達している。

 安易にAV(音響・映像)化に走るパソコンが多いなかで、ストイックともいえる厳粛さでツールとしての使いやすさと魅力づくりにこだわる。この2つのノートパソコンの凛とした姿勢からは、デジタル時代の本当のものづくりのあり方が理解される。
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