総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>29.大日本晒染(上)

2005/05/30 16:18

週刊BCN 2005年05月30日vol.1090掲載

 ITを駆使して“攻めの経営”を実践している染色加工メーカーがある。和歌山市に本社を構える大日本晒染(川口正敏社長)は、過去13年余り稼働してきたオフコンをオープンシステム化し、生産管理システムなどの基幹業務システムを刷新。生産現場の情報を経営者が迅速に把握できる仕組みを取り入れることで、スピード経営実践の基盤を構築した。

ITで染色加工を管理

 システムインテグレーション(SI)を手がけた倉敷紡績(クラボウ)のエレクトロニクス事業部では、「ITに強いクラボウのノウハウをベースにした同業他社への横展開」(成田裕・クラボウエレクトロニクス事業部システム開発部企画開発グループ課長補佐)に力を入れ、繊維産業におけるITを活用した経営革新を推し進めている。

 国内繊維市場における衣類の輸入比率は数量ベースで約9割に達しており、1990年代初めに比べ繊維製造業の事業所数は約4割、従業員数は約5割減少した。歴史のある産業だけに、60歳以上の経営者の割合は7割以上と見られている。こうした現状を踏まえ、ITを活用した経営革新など業界を挙げて構造改革を推進。国際競争のなかでの勝ち残りに取り組んでいる。

 大日本晒染も、「経営の効率化」(喜納浩・常務取締役社長代行)を進めるうえで情報システムの刷新は不可欠だと判断した。これまでのオフコンをベースとしたシステムでは、少量多品種化による情報量の爆発的な増大に対応しきれず、処理が追いつかない状態が続いていた。新しいシステムでは、販売管理や在庫管理などの情報をリアルタイムに集計する能力の向上を重視した。

 しかし、既存のパッケージ化された生産管理システムでは、複雑な染色加工ビジネスに合うものがなく、独自に開発するより選択肢はなかった。そこで、大日本晒染がSIパートナーに選んだのは、繊維産業に精通し、自らも染色加工を手がけるクラボウエレクトロニクス事業部だった。繊維産業の国際競争の現状をよく把握し、大日本晒染が求める要求を深く理解できる業務ノウハウを持っている。

 クラボウは染色加工業を中心に、生産管理や検査システム、色管理・検査システムの開発を20年余り前から手がけており、カラーマッチングや染料の自動計量では業界トップのシェアを獲得。近年では衣類用の生地だけでなく、ロールに巻き取って管理するシート状の工業用製品の生産管理や検査システムなど、幅広い分野でシステム構築の実績を伸ばしている。

 このようにITを駆使した生産管理で実績があるクラボウが、今回、大日本晒染向けに開発した情報システムは「染色加工業向け基幹業務および生産管理システム」。およそ1年かけて要件定義やソフトウェア開発を行い、04年5月に稼働した。マイクロソフトの認定パートナーでもあるクラボウは、システム開発のプラットフォームにウィンドウズを選択した。

 大日本晒染がリアルタイム処理などの高速化を重視する背景には、国内繊維産業全体が少量多品種、高付加価値へと進んでいることが挙げられる。繊維業界では、大量生産衣料を「ボリュームゾーン」、高級衣料を「バリューゾーン」と区分けし、バリューゾーンに特化して、国際競争力の高い製品開発に経営資源を集中するメーカーも少なくない。

 バリューゾーンでは価格が高くなるため、少量多品種の生産が基本になる。たとえば高級衣料を販売する専門店からは、生地一反(50メートル)単位での注文が増えている。一反あれば一般的な婦人服が約20着できると言われており、専門店ではS、M、Lの3サイズをそれぞれ6着ほどつくって販売する。完売したとしても「売れるから」という理由で同じデザインの服を大量につくることはしない。限りなく「一品モノ」に近い存在にすることで希少価値を高める。

 また、バリューゾーンへの移行が進んだとしても、それだけで収益が拡大するわけではない。染色加工のケースで見ると、仮に販売価格が大量生産品の10倍になったとしても、加工賃は「据え置きか若干の割り増しになる程度」(繊維関係者)で対応しなければならないことが多い。

 ボリュームゾーンの商品を手がけていた時代ならば、大口受注の伝票1枚で大きな売り上げを確保することもできたが、小口受注が進んだ今では、同じ売り上げでも伝票処理の負荷は飛躍的に増えた。

 受注の小口化によって、案件単位の損益を厳密に計算することが求められるようになった。大口受注時代は、特定の顧客からの受注管理に集中する傾向が強かった。しかし小口受注では「収益性が高い仕事を選択し、高効率で回していく」(クラボウエレクトロニクス事業部の成田・課長補佐)必要に迫られている。出荷までのサイクルも大幅に短くなるなかで、随時的確な経営判断を下していくためには、従来の月次単位の集計結果ではなく、日次単位の情報を経営者がリアルタイムに把握しなければならない。

 次回は、大日本晒染が導入したシステムを詳しく検証する。(安藤章司)
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