視点
成熟市場でのモノづくり
2005/05/23 16:41
週刊BCN 2005年05月23日vol.1089掲載
その頃、私はコンピュータ業界の担当記者で、自動車業界とは無縁だったが、このコラムは他業界のことも言いたい放題だった。ただ、同僚の自動車担当記者からは、「おまえの言ってることは分からないでもないが、安全を強調しても車は売れないのは業界の常識なんだ」との評をもらった。この頃はまだ、馬力や加速性能を全面に押し出した製品PRも少なくなく、「なるほど、そういうものか」と妙に納得したが、その後、自動車業界は安全重視の方向へ大きく舵を取り、さすがに“人より弱いバンパー”は登場しなかったものの、歩行者の視認性を高める工夫や危険回避のためのモニターなどが搭載されるようになった。現在では安全性に加え、「快適(居住性)」、「環境」にも消費者の厳しい目が向けられている。
自動車市場は、すでに先進国では成熟の域に達しているが、こうしたなかにあって、この3月期決算で日系自動車メーカーの大半が好決算を残しているのを見ると、「成熟市場におけるモノづくり」というものをIT業界も改めて考えてみる必要があるだろう。
昨年度の国内パソコンの出荷台数(JEITA調べ)は、前年度比12%増の1207万5000台となり、個人向け、法人向けとも前年度を上回ったが、これを見て「市場はまだ成長する」と受け取る向きはいないだろう。パソコンも自動車と同様、CPU性能や記憶容量を競い合う時代はとっくに過ぎている。だが、過去の“常識”の延長から脱しきれず、成熟市場におけるモノづくりを確立できたとは言い難い。コモディティ化した商品であっても、消費者が敢えてお金をかけたくなる“きっかけ”は何か。今後、光ファイバーや地上デジタル放送のインフラ整備が進むなかで、「安心」「心地良さ」といったあたりにキーワードが潜んでいる気がする。
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