e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>35.政府調達の電子契約

2005/05/16 16:18

週刊BCN 2005年05月16日vol.1088掲載

 総務省はこのほど、政府調達(公共事業を除く)における契約の電子化のあり方に関する検討会の最終報告書をまとめた。民間部門では一部の業界で電子契約サービスが開始されているが、公共部門でも電子契約の実現に向けて今年度からシステム設計がスタート。2年で設計を終えシステム開発を実施し、早ければ2009年度から電子契約サービスを導入する計画だ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 現在、東京・霞が関の中央省庁における政府調達(公共事業を除く)は年間約15万件。地方支局などでの調達を含めると年間100万件に達するとみられている。中央省庁の契約業務は会計法などの法令に準拠して実施されているが、業務フローやプロセス、帳票類は各省庁ごとに異なり、同じ省庁でも地方局ごとに細かな差異が生じているケースもあった。また、契約書などを作成する割合は契約全体の約2割であり、毎年2月から4月までの3か月間に年間契約の約7割が集中している。

 政府調達の入札・契約業務の電子化については90年代に基本方針が打ち出され、すでに電子入札は公共事業が01年11月から、公共事業以外も02年10月から運用を開始済み。公共事業は国土交通省が、公共事業以外は総務省が電子入札システムを開発して各省庁ごとに導入が進められたが、結果的に各省庁でシステムの改良が行われたため、入札参加者である民間事業者は省庁ごとに電子証明書を取得して個別対応が必要になるなど使い勝手の面で問題も指摘されている。

 総務省では、電子入札システムの開発に引き続き、03年9月に政府調達(公共事業を除く)における契約の電子化のあり方に関する検討会を設置して、1年半かけて調査・検討を行ってきた。今回の最終報告書では、契約業務の負担軽減や簡易なアクセスによる「民間事業者の利便性向上」と、契約業務の標準化・効率化の促進や透明性の向上による「政府の契約業務の最適化」の2つの目的の実現に向けて、電子契約システムの導入が提言された。

 システムの全体イメージは、電子入札の反省も踏まえて、中央省庁全体で業務フローや契約書など帳票類の標準化を実施、全省庁で一元的に利用するシステムを開発する。基本機能は、契約締結業務や請求支払支援を行う「契約基本サービス」、政府の窓口を一本化する「ポータライズサービス」、各業界EDI規格に準拠した商品情報や見積もり依頼・回答のやり取りを可能にする「サーバアクセスサービス」、政府の購入条件に合致する商品を登録する「カタログ調達サービス」の4つに、政府調達の状況を一般公開する「情報公開サービス」を加える。ただし、サーバアクセスサービスとカタログ調達サービスについては、当初のシステムから提供されるのではなく、中長期的な課題として引き続き検討される。

 報告書では、導入効果について契約業務に要する時間が約35%削減され、経費削減は霞が関の本庁のみの場合で導入後4年間に約11億円、地方局を含めれば約73億円と試算。民間事業者でも契約書の印紙貼付が不要となり、契約業務に関する時間も約4割短縮、費用もほぼ半分になると予想している。

 一方、公共事業の電子契約システムは、担当する国土交通省大臣官房技術調査課からは、まだ具体的な方向性が示されていない。すでに建設分野では、同じ国土交通省総合政策局建設業課が所管する財団法人建設業振興基金が建設EDI標準「CI-NET」を開発済み。今年3月上旬に開催された「CI-NET/C-CADECシンポジウム」で、大手ゼネコンの大林組からCI-NETを利用して民間同士では電子契約率が約6割に達するとの報告があるなど、利用が進み出している。しかし、同シンポジウムのパネルディスカッションに参加した國領二郎・慶応義塾大学教授から、「CI-NETが、なぜ公共事業の電子契約に活用されないのか」との問題が指摘されたように、同じ建設請負契約でも民間と公共で異なる電子契約の標準化が進められる懸念も出ている。通常の入札契約だけでなく、追加工事契約や随意契約などを含めたすべての契約業務の透明性を高める上で、公共事業でも電子契約の導入が必要であることは間違いない。
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