ITIL創生期 変わるITサービス

<ITIL創生期 変わるITサービス>4.「共通言語」でインシデントを一元管理

2005/05/02 16:18

週刊BCN 2005年05月02日vol.1087掲載

 このところ国内のIT投資は緩やかな回復基調にあるといわれる。だが、依然としてユーザー企業からは、システム構築の低価格化や短納期の要求が絶えない。

 そのため、システム開発・構築の上流段階で、「(下流の)運用設計がおざなりのまま運用部門(ユーザー企業内の情報システム部門やアウトソーシングを受けるシステムインテグレータ)へシステムが引き渡される」(NTTコミュニケーションズの安岡恵一・ITマネジメントサービス事業部ビジネス推進部IT戦略担当課長)ことが少なくない。

 システム構築後には、修正にともなう膨大な費用と時間を要しているのが現状である。

 欧米企業では、保守・運用サポートの作業者と管理者(マネジメント担当)が明確に分かれている。一方、日本企業の多くは、作業者とマネジメント担当が混在し、後者が現場作業をしているケースが多い。これが、「マネジメントを意識しない保守・運用サポートとなり、属人的な業務に陥っている」(富士通の中村春雄・アウトソーシング事業本部オンサイトサービス統括部担当部長)原因という。

 ITILは、日々の運用を記述した「サービスサポート」(6項目)と中長期的なサービスの管理手法を記述した「サービスデリバリ」(5項目)で、保守・運用サポートのプロセスや機能、マネジメントの方法を提唱している。運用マネジメント組織とハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションの保守などの専門チームにより、マネジメントと作業を分離し、これらのプロセスを繋ぐことで仕事を遂行していく。

 要するに、システムインテグレータのアウトソーシング部門や企業の情報システム部門側では、システム上のトラブルやインシデント(疑問)などに関する情報を一元管理できる。ITILベースの運用組織やマネジメント体制を整備すれば、多くの属人的な“日本型”の保守・運用サポートを解決できそうなのだ。

 また、ユーザー企業のシステムは、オフコンからオープン化への移行が進展し、企業1社内に多くのメーカーのハードとソフトが混在して、インシデントなどの連絡や問い合わせ先となる保守・管理サポートのベンダーも複数存在する。

「保守・運用サポートの現場では、各ベンダーがもつ独特の用語が並び、ユーザー企業側で対応に苦慮する場面があった。ITILがデファクトになればITILで使う用語がベンダー間、ベンダーとユーザー企業間で“共通言語”になる」(NECの大畑毅・マーケティング推進本部シニアエキスパート)と、インシデントなどの対応が一元管理できるという。

 ITILは英国で作成され、欧米に浸透したITサービスのベストプラクティスを集約した。欧米と日本のシステムに関する体制は、上記の通り、組織やマネジメント方法が違う。だが、「保守・運用サポートに関する業界共通で集約した考えはITILしかない。ほとんどの国内ベンダーが今後、ITILに依拠することになる」(マイクロソフトの鈴木和典・執行役エンタープライズ・サービス担当)と“日本発”ITILをIT業界全体で盛り上げる必要性を感じている。
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