総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>25.富士通研製作所(上)

2005/04/25 16:18

週刊BCN 2005年04月25日vol.1086掲載

 納期、数量、価格…。時々刻々と変化する顧客の要望にITを駆使して柔軟に対応している工場がある。岩手県に工場を持つプラスチック金型製作・成形の富士通研製作所(中嶋俊雄社長)は、東京で集めた顧客の要望を工場にフィードバックして生産計画を迅速に変えられる体制を整備した。

東京から岩手工場の情報にアクセス

 工場の生産計画や原価管理に関する情報をデータベース化し、その情報の一部を東京などの出張先から遠隔操作で閲覧、変更できる仕組みをつくった。これにより顧客企業の納期や発注数量、価格などの急な変更に対して、どこまで対応が可能なのかを瞬時に判断できるようになった。

 富士通研製作所は、プラスチック成形機14台を駆使し、週に100アイテム近いプラスチック部品を製造している。顧客企業からの発注は10年前では考えられないほど多品種少量化し、品質に対する要求も格段に高まった。市場の動きと連動した突発的な注文も増え、「顧客の要望に従い、生産計画を調整したり、見直す作業が頻発」(中嶋祐行常務取締役)するようになった。

 1963年、東京都中野区でトランジスタの性能などを測定する機器や小型ラジオを組み立てる町工場として創業した同社は、73年にプラスチック成形の分野へ進出。これをきっかけに、工場立地の条件がいい岩手県胆沢郡前沢町に新工場を建てた。以来、役員などの営業担当者は工場と東京を往復して顧客企業への営業や工場の管理に努めてきた。

 大量生産の時代が終わり、市場の動きと連動した多品種少量生産に移行した現在では、新幹線で岩手県と東京を往復するだけでは、市場のスピードに追いつかなくなってきた。岩手県の工場内にいなければ生産に関する情報にアクセスできなかった従来の環境では、いったん東京などへ出てしまうと、顧客企業の要望に応えるための判断材料になる生産現場の情報が不足しがちだった。

 これを解決するため04年11月、生産計画などの重要なデータなどを共有する“ファイル共有サーバー”を立ち上げた。営業を担当する役員が持ち歩くノートパソコンに、ファイル共有サーバーとの通信を暗号化して情報漏えいを防ぐVPN(仮想私設網)クライアントソフトを入れ、出張先からでも工場の生産計画などのデータを参照できるようになった。

 98年までは電子メールすらなかった同社の状況を考えれば、これは大きな業務改革を遂行した結果だ。98年に大手精密機器メーカーの設計部門から富士通研製作所へ転職した中嶋常務は、パソコン1台ない状況に「唖然とした」と当時を振り返る。金型設計の部門はCADを使っていたが、それ以外はすべて伝票を使った紙ベースの管理だったという。

 今、何をつくるべきかの判断は、経営者の責任で行う。しかし、生産管理を紙ベースの伝票で管理していては、「工場で、いま何を生産しているのか」、「原材料はいくらで仕入れたのか」などの情報を引き出すのにさえ時間がかかった。伝票を見るより、工場内を見回り、担当者から直接情報を聞き出した方が早かった。これでは、工場から一歩外に出ると、まったく工場内の情報が分からなくなる。

 中嶋常務は、まずマイクロソフトのデータベースソフト「アクセス」で、原価管理などの情報をパソコンで管理する作業を始めた。金型を管理する「金型管理システム」と、プラスチック成形製品を管理する「製品管理システム」の2つのデータベースを自ら作成した。昨年11月に導入したファイル共有サーバーに格納されている情報は、このデータベースから切り出した情報も少なくない。

 需要が突発的に増えたり、収束したりと、大きな変化の波がより顕著になってきたのは、携帯電話やパソコンなどの部品注文が増え始めた頃からだという。これは、富士通研製作所に発注する電機メーカーの発注ミスや需要予測ミスの結果ではなく、市場の需要の変化の波が、製造現場までダイレクトに到達するようになったからである。

 たとえば、携帯電話なら、消費者から通信キャリア、電機メーカー、部品メーカー、協力工場、素材メーカーへと需要の波が連鎖していくなかで、関連するそれぞれの会社が柔軟に生産計画を見直し、波をうまく吸収していかなければならない。こうした連鎖のなかで、「“自分たちだけは生産計画を変えたくない”という言い訳は通用しない」(中嶋常務)と、顧客本位の経営を実現させるためにITを積極的に活用する。

 東京などで顧客先に足を運んだ時、工場でいま何を生産して、原価はいくらなのかという情報が詳細に把握できれば、顧客の突発的な要望にも対応しやすい。生産現場の情報が手元に集まらなければ、顧客の要望にどうやったら応えられるのかも分からない。「品質の良い製品を、早く、安くつくるのは当たり前。顧客が困っている時、柔軟に対応し、顧客満足度を高めてこそ売上増に結びつく」(中嶋常務)と、顧客の要望に最大限応えることが事業拡大に結びつくと考える。(安藤章司)
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