総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>24.JA鹿児島県経済連(下)
2005/04/18 16:18
週刊BCN 2005年04月18日vol.1085掲載
独自ソリューションを全国展開へ
JA鹿児島県経済連でも高く評価された競りや生産履歴管理の仕組みは「全国展開できる競争力が十分にある」(南日本情報処理センターの小園一晃・ソリューション本部部長)と、独自のソリューションとして売り込みに力を入れる。南日本情報処理センターが自社ソリューションの全国展開に意欲を示す背景には、「鹿児島県を中心とした市場だけでは事業拡大に限界がある」(黒坂社長)と、県内のIT投資だけでなく、広く県外の市場を取り込む必要に迫られている点が挙げられる。
県内の情報サービス企業約70社からなる鹿児島県情報サービス産業協会の今井誠・事務局長は、「ソフトウェアを開発するSE(システムエンジニア)の月額単価も決して高くなく、一部には請け負い仕事への依存度が高い会員企業もある」と、市場環境は厳しさを増していると指摘する。
南日本情報処理センターは創業35周年を迎えた2004年9月期の決算で単独売上高60億円を目指していた。だが、ハードウェアの単価下落や市町村合併にともなう特需が東京に本社を置く大手SIに流れてしまったことなどから、実績はこの目標には届かなかった。黒坂社長は、07年9月期までには単独売上高60億円、経常利益率5%を中期目標に掲げ、再チャレンジに挑む。
この目標を達成する重要な手段の1つが自社ソリューションの全国展開である。
地場の鹿児島県を中心とした市場では、公共から民需、医療まで幅広いSIビジネスを展開する同社だが、全国展開を推し進める上で、「あらゆる業種・業務で全国的な競争力がきわめて高いわけではない」(黒坂社長)と、実績やノウハウの集積度が高く、全国規模で市場競争力を発揮しやすい分野の優先度を高める必要があると考える。その市場競争力が高い業種の1つが農畜産関連のソリューションである。
「茶総合情報ネットワークシステム」は、茶の競り市を支える重要な役割を担っており、サーバーは南日本情報処理センターのデータセンターで管理している。この業務システムは、処理速度が低下したり、サーバーが停止することが許されない性質のものであるため、サーバーや通信回線などをすべて二重化し、「停止しないシステム」(南日本情報処理センターの上野真一・ソリューション本部主任)に仕上げた。
南日本情報処理センターは、顧客から受託計算を事業の柱とする計算センターの出身だけに、データセンター設備は他のSIに比べて充実している。停止が許されない顧客の業務システムを、データセンターのインフラ上に構築することで信頼性を大幅に高めた。これも同社ならではの強みの1つだ。
競りに関する情報システムは、例えば、食肉や花卉(かき)の競りなどのなかで、業者が入札して落札価格を決める方式なら横展開が可能で、「茶れきくん」についても米や野菜、果樹など幅広い食品の生産履歴管理に応用が可能だという。
全国的な組織を持つ事業者の多くは、本社機構がある東京で情報システム導入を決めるため「地方から提案しても、なかなか難しい」(南日本情報処理センターの小野映一・ソリューション本部農畜産グループ副参事)のが現実だ。同時に、本社機構には全国のSIが営業をかけるため、競争が激しく、よほどの訴求力がないと受注できない。
この打開策の1つとして南日本情報処理センターでは、農業や畜産が盛んな鹿児島県で培った農畜産ソリューションを切り口に、東京の本社機構に対する営業を強化する。折しも、食の安全に対する関心の高まりから生産履歴管理やトレーサビリティなどの情報システム需要は全国的に高まっている。農畜産が盛んな鹿児島で鍛えられた南日本情報処理センターのソリューション提案に対する顧客の積極的な反応に、同社では「十分な手応え」(小野副参事)を感じている。
NEC販売特約店でもある南日本情報処理センターの東京支社は、これまで、どちらかと言えば“NECと連携してビジネスを展開していく拠点”という性格が強かった。今後は、NECとの連携拠点としての機能を維持しつつ、農畜産分野など同社独自のソリューションを展開する前線基地としての役割をより拡大させる。黒坂社長は「まず足がかりとなる起点を見つけて、そこから派生するビジネスを追求し続ける」と、得意業種のソリューションで切り込み、そこから全国展開への糸口をつかみ取ることが大切だと考える。
南日本情報処理センターは、農畜産だけでなく、データセンターを活用したアウトソーシングや医療分野、流通分野など、得意分野の柱を複数持っており、今後はこうした競争力のある独自ソリューションを順次全国へ展開していくことで事業の拡大を図る。(安藤章司)
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