コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第3回 プロローグ(3)

2005/04/18 16:05

週刊BCN 2005年04月18日vol.1085掲載

 経済産業省の特定サービス産業動態統計による2004年の国内ソフトウェア開発売上高は9兆6375億円で、03年に対してわずか0.5%の増加。現場の声を聞くと、多くのシステムインテグレータ(SI)首脳が「企業の情報化投資が回復し、プロジェクトの数は増えている」という。仕事が増えて、売り上げが伸びない──つまり単価ダウンがSIなどの業績に暗い影を落としていることは、再三BCN紙面上で指摘してきた。これに輪をかけるように、何層にも及ぶソフトの下請け構造が状況をより悪くしているのは確実だ。(光と影PART IX・特別取材班)

単価ダウンが業績に暗い影 深刻なソフトの下請け構造

■曖昧な日本型のシステム開発

 下請けや孫請けは当たり前。何層にもなる発注構造のために、元請けは末端の業者の姿が見えない。国防や国政だけではない、金融をはじめとする重要産業の情報システムであっても、そうした開発構造の中にあった。いくつかの事件でそうした構造を改めようという機運が高まったのは記憶に新しいところだ。

 日本情報技術取引所(JIET)の二上秀昭理事長は、「大手メーカーや大手SIが、利益確保のために極めて安価で下に発注している。この状況は変えなければならない」と語気を荒げて訴える。独立系SI 12社が集まるインフォメーション・テクノロジー・アライアンス(ITA)の内藤惠嗣会長(情報技術開発会長)も、独立系SIや中堅・中小ソフトベンダーの置かれた状況について、「大手SIも苦境に立っているだろうが、それ以下はさらに厳しい状況だ」と表情は険しい。

 経産省の特定サービス産業動態統計を見ると、2004年の受注ソフト売上高は5兆6355億7000万円(前年比1.5%増)。このうちSIは3兆2563億円(同3.5%増)と全体の伸び率を上回る。それに対して、計算事務等情報処理は6768億円(同4.2%増)、システム等管理運営受託1兆861億円(同7.5%増)と、アウトソーシングサービスの方が伸び率が大きい。

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 アウトソーシングサービスを提供する企業は、「システムを構築するより安価にサービス提供を受けられることをアピールし、受注を伸ばしている」点を強調する。「独自に開発したり、カスタマイズしたソフトより、安く済むならパッケージを活用する、という企業ユーザーも少なくない」とも。あって当たり前の情報システムに対しては、投資する側も財布の紐を固くしているという構図が見えてくる。

 SIの反論は、「ユーザーの多くはプロジェクトが進むうちに、次々とカスタマイズを要求してくる」。こうしてプロジェクトは期間延長で赤字プロジェクト化というように、SIにとっては絶対に避けなければならない悪循環に容易に落ち込む。

 テストツールベンダー、マーキュリー・インタラクティブ・ジャパンの小將弘・技術部ディレクターは、「日本型のシステム開発は曖昧の積み重ね」と突き放す。「発注者はSIのやり方に任せ切り。受注した側も仕様が固まらない状態で開発をスタートさせなければならない」。極端な例では、トラブルが発生した場合に、ユーザー企業は自身で何も解決できず、SIも責任回避に躍起になっているという場合も起こり得るのだという。

 小ディレクターは、「日本のプロジェクト管理がなってないからだ」と断言する。そうした開発環境では単価ダウンの影響をもろに被り、開発遅延でも発生すれば容易に赤字プロジェクト化するのは自明の理と言わざるを得ない。

■増えるオフショア開発と首都圏一極集中

 少しでも開発コストを低減するために、ソフトベンダー各社は中国やインド、さらにはベトナムなどでのソフト開発、いわゆるオフショア開発に乗り出している。開発人員のコストが低いことに加え、オフショア開発を導入している企業の多くが中国、インドなどの開発要員のスキルの高さを挙げる。

 情報サービス産業協会(JISA)が昨年11月にまとめた「2004年コンピュータソフトウェア分野における海外取引および外国人就労等に関する実態調査」によると、03年の実績ベースで中国へのアウトソーシングが、02年に比べ2.7倍の263億円に拡大したという。04年の統計は明らかにされていないが、取材した感触ではさらにオフショア開発の金額は拡大している模様だ。

 しかし、実際に中国でオフショア開発を拡大しているSIのトップは、「効果はあがったが、逆に中国への依存度が高まった」と冷静に分析。また、別のSI首脳も、「ビジネスとは別だが、日中間の問題が頭をよぎる」と手放しでオフショア開発の成果を認めているわけでもなさそうだ。「言葉に堪能なブリッジSE(システムエンジニア)のコストは日本国内のスキルの高いSEと変わらなくなってきた」という指摘もある。

 国内の地域格差も広がっている。日立製作所の林雅博・執行役常務関西支社長は、「結局、大手のユーザー企業は東京に集中しており、さらに大手SIもITメーカーも東京にある。これで首都圏に仕事が集中しないわけがない」と語る。特に、金融や通信といったビッグプロジェクトのほとんどが東京で発生している状況では、首都圏への一極集中もやむを得ない。

 経産省がまとめた特定サービス産業実態調査によれば、03年実績ベースでの各県の情報サービス産業の売上高を見てみると、1位が東京都の8兆1458億7000万円(前年比1.8%増)、2位が神奈川県の1兆8000億円(同19.2%増)。これに対し、3位の大阪府は神奈川県の約半分の9437億6000万円(同19.2%減)、4位の愛知県は5410億2000万円(同14.1%減)、5位の福岡県は3052億8000万円(同13.9%減)と、1位東京と5位福岡では実に6倍の開きがある。

 地方の需要が減退し、首都圏の需要が拡大する。さらに低コストを求めて、ソフト開発が中国やインドに流れていく。地方のベンダーにとってはまさに生き残りをかけた戦いに突入しなければならない状況に追い込まれている。
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