総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>23.JA鹿児島県経済連(中)

2005/04/11 16:18

週刊BCN 2005年04月11日vol.1084掲載

 茶総合情報ネットワークシステムを導入し、茶の競り市の業務効率を大幅に改善したJA鹿児島県経済連茶事業部は、茶の生産履歴管理についても積極的にITを活用している。

生産履歴をコンピュータで管理

 生産履歴管理については、ここ数年、茶商や飲料メーカーなどからの要望が大きい分野で、JA鹿児島県経済連では、2004年4月からコンピュータを本格導入し、生産履歴管理の効率化に取り組んでいる。06年3月末までには、JA鹿児島県経済連茶事業部が取り扱う荒茶全体の約6割の生産履歴をコンピュータで集計することで、迅速でより正確な管理を進める。全国第2位の生産量である鹿児島県産の茶の「安心・安全」をアピールし、ブランド力の強化に努める。

 茶の生産履歴管理システムの名称は「茶れきくん」。これまで手作業で記入していた農薬や肥料を与えた時期や量などの生産履歴情報をコンピュータで管理する。農薬については、葉にかけてから一定期間をすぎないと葉を摘み取れなかったり、希釈倍数や散布回数に厳しい規制がある。これらが守られていることを証明するため、散布した時期や量、成分などの詳しい履歴を残す必要がある。

 茶は畜産とは異なり、複数の生産農家から集めた生葉を工場で混ぜ合わせることから、生産管理が難しいと言われてきた。これをコンピュータで管理することで、迅速でより正確な管理を可能にした。

 鹿児島県内には、生葉を加工する荒茶工場が約660か所ある。このうち今年3月3日時点で95か所が「茶れきくん」を導入し、コンピュータで生産履歴を行うようになった。「茶れきくん」の立ち上げから1年間で95か所の導入を達成したことから、JA鹿児島県経済連茶事業部は、今年度末までに現在の約2倍の200か所に「茶れきくん」の導入を推進する計画だ。

 荒茶工場の全体数から見れば3分の1程度に過ぎないが「生産量の多い工場を重点的に普及」(JA鹿児島県経済連の古園重信・茶事業部主査)させていくことで、JA鹿児島県経済連茶事業部が取り扱う荒茶全体の約6割を「茶れきくん」でカバーできるようにする。

 手作業で生産履歴を収集している頃は、生産履歴の開示請求が来てから実際に開示できるまで約2週間かかった。「茶れきくん」の普及が進めば、入力された生産履歴に関する情報をデータセンターで一括して管理できるようになるため、請求から開示までの時間を大幅に短縮できる。現在は、茶商などからの開示請求に対して必要な情報を紙ベースで提供しているが、将来はオンラインで生産履歴を閲覧できる仕組み作りも視野に入れる。

 JA鹿児島県経済連が生産履歴の管理に力を入れる背景には、茶商や飲料メーカーからの要望が高まっていることに加え、鹿児島県産の茶のブランド力をより高める狙いがある。

 食の安全を確保するため、茶商や飲料メーカーが生産元に生産履歴の開示を請求する頻度が高まっている。04年度は、JA鹿児島県経済連の荒茶の出荷全体の約2割相当について生産履歴情報の開示請求が来ており、今後もこうした請求が増えることが予測されている。近年では「生産履歴を開示できない生産元からは買い付けできない」という方針を示すバイヤーもいるという。

 この点、鹿児島県産の茶は、早くから生産履歴の管理を徹底しているため、「買い付け側の要望を満たしている」(古園主査)と、コンピュータで生産履歴管理の効率化の推進に自信を示す。

 ただ、飲料メーカーが製造する缶やペットボトルに詰められたお茶のうち、鹿児島県産の茶が使われている製品は少なくないにもかかわらず、なかなか鹿児島県産の茶が前面に出ないことにJA鹿児島県経済連ではいら立ちを隠せない。「全国第2位の生産量を誇る鹿児島県産の茶が、ブランドの知名度では他の地域に比べてまだ弱い可能性がある」(同)と、生産履歴の管理を徹底し、安心・安全の鹿児島県産の茶のブランド力を高めていくことに力を入れる。

 ITを活用し、迅速で正確な生産履歴を管理すれば、茶商や飲料メーカーからの評価がさらに高まり、最終的に鹿児島県産の茶のブランドを高めるのに役立つとJA鹿児島県経済連では考える。

 現在は、生産者が生産履歴に関する情報を茶商や飲料メーカーなどに提供する一方通行の流れだが、将来は、生産した鹿児島県産の茶が、どういう流通過程を経て消費者へ届いているかなどの情報を還元してもらう仕組みづくりが可能かどうか模索する。こうした市場での消費動向に関する情報を収集することで、より需要に適した茶の生産が可能になるからだ。

 古園主査は、まだ構想の段階だがと前置きした上で、「オンラインでの生産履歴の提供と、生産した茶の消費動向などの情報をギブアンドテイクで、双方向にやり取りできれば、生産性の向上の足がかりになる」と、情報の好循環を創り出すことで鹿児島県産の茶の市場競争力の向上を目指す。

 次回は、「茶総合情報ネットワークシステム」や「茶れきくん」のシステムを開発したシステムインテグレータ、南日本情報処理センターの戦略を検証する。(安藤章司)
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