ITIL創生期 変わるITサービス

<ITIL創生期 変わるITサービス>2.保守・運用コスト削減に「3つの壁」

2005/04/11 16:18

週刊BCN 2005年04月11日vol.1084掲載

 「企業の保守・運用費がIT投資の7割にも達するのはなぜか」──。企業経営者やIT担当者の多くは、IT投資の費用増大に頭を抱える。富士通の中村春雄・アウトソーシング事業本部オンサイトサービス統括部担当部長は、「日本企業の保守・運用部門は疲弊してる」とした上で、運用・保守コストが膨れ上がる背景には「3つの壁」が存在すると指摘する。(1)縦割り組織、(2)属人性の高い仕事の仕方、(3)マネジメント不在、がそれだ。

 1つ目の壁は「縦割り組織」だ。企業内には基幹系や営業支援などの情報系の両システム、ネットワークに代表されるインフラなどを別組織で運用しているが、「例えば、営業支援システムが停止すると、原因がネットワークだった場合、縦割りが壁となり、すぐに復旧できない」(中村担当部長)。2つ目の壁は「属人性」だ。システム保守・運用の手順が個人のノウハウ、いわゆる属人的に運用を進めている点が上げられる。最後の「マネジメント不在」の壁により、トラブルが発生した際の対処に関する受付、調査、修正、実装など作業のプロセスごとに目標を持ち改善を図る担当者が存在せず、問題解決を効率良く対処できないという。

 この3つの壁は、ITILを導入することで、保守・運用のプロセス群に整理して、役割とプロセスを明確することで解消できる。それがITILへの期待だ。

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 前項で説明した通り、ITILのフレームワークは、日々の運用を記述した「サービスサポート」と中長期的なサービスの管理手法を記述した「サービスデリバリ」から成る。具体的にサービスサポートは、システム障害やユーザーからの問い合わせ状況を管理する「インシデント管理」やハード、ソフトなどの構成要素を把握する「構成管理」、構成要素を変更するプロセスを標準化する「変更管理」などがある。一方のサービスデリバリは、プログラムのバグなどを早急に修復したり、変更履歴を的確に管理するなどで、サービス品質を保つ。

 しかし、ITILは一種“ノウハウ本”のようなもので、ITサービスのベストプラクティスを整理した書物にすぎない。資料を読むだけではITILに適応できないため、大手ITベンダーでもNECや日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、マイクロソフトなどは、自社システムにまず導入、ノウハウを積んできた。

 NECは2003年7月、NEC本体と同グループ会社の基幹システムや営業支援システム(BEAT)、アウトソーシングの内部プロセスなどにITILの適応を開始。06年度(07年3月期)までに営業システム領域の運用費用を03年度比で25億円削減するプロジェクトを進めている。

 NECはこのプロジェクトで蓄積したITIL診断サービスや運用プロセス設計、統合運用管理ミドルウェア「ウェブサム」の導入、サポートサービスなどを「ITILビジネススィート」として体系化し、企業向けにITILの適用を支援するサービスを昨年末に提供開始している。「ITILは英国で生まれたが、日本型の商習慣に合致したITILがあると思う。ITILは万能ではないので、自社(NEC)システムに適用して問題点を洗い出した」(NECの大畑毅・マーケティング推進本部シニアエキスパート)と、日本型ITILを模索している。
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