コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第1回 プロローグ(1)

2005/04/04 16:05

週刊BCN 2005年04月04日vol.1083掲載

 日本のソフトウェア開発が転機を迎えている。国内の情報システム需要は回復に向かっているものの、プロジェクト単価のダウンなど業界を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。ソフト開発コストの低減が大きなテーマとなっている。大手ベンダーやシステムインテグレータ(SI)を中心に、中国やインドでのオフショア開発に乗り出すケースが増え、また、国内で地方のSIを活用するという手段を選ぶソフト開発業者も出てきた。週刊BCNでは、「コンピュータ流通の光と影PART IX 拡がれ、日本のソフトウェアビジネス──大手ベンダー・全国SIの挑戦」と題して、日本のソフト開発に「今、何が起きているか」を探っていく。 (光と影PART IX・特別取材班)

転機を迎える日本のソフト開発 コスト低減が大きなテーマに

■「人月単価の引き下げは、もはや限界」

 先端的なIT装備が、企業の競争力アップには欠かせない。その状況はますます顕在化しており、それが企業にIT投資を促す要因になっている。それと同時に、情報システム構築プロジェクトの単価も下がっている。ベンダーやSIにとっては、「案件数は増えているが、激しい過当競争下にある。これが利益率を大幅に引き下げる原因になっている」(SI首脳)という厳しい状況だ。特に下請け発注を受けるような中堅・中小のソフトハウスにとっては厳しい条件を飲まざるを得ず、それが首を絞める結果につながっている。

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 中堅・中小のSI首脳の多くは、「今の状況は、結果的に大手メーカーやSIに有利に働いている」と見ている。首都圏に本社のある独立系SIの幹部は、「下請け案件を減らす努力は続けている。毎年、大手からの協力要請があって人月単価の引き下げをしてきたが、もはや限界。赤字になってまで対応する余力はない」と苦しい胸のうちを吐露する。

 有利な状況と見られている大手だが、こうした環境下では下請け発注する側も同様に苦しんでいる面がないわけではない。厳しい競争を勝ち抜き受注はしたものの、自社のシステムエンジニア(SE)を使っていては採算割れになる、あるいはSEの数が足りないケースも出てくる。

 大手コンピュータメーカーの、ある地方支店長は、「どれだけ優秀なSEを社内でかき集められるかにかかっている」と、受注したプロジェクトを完遂するためには社内の駆け引きを勝ち残らなければならないという。この支店長によれば、自治体システムなどの大型プロジェクトの場合、「顧客の重要性や規模、今後のシステム案件につながるような場合、本社でも優秀なSEをつけてくれる可能性が高い」というが、2番手、3番手のプロジェクトになると、「社内での政治力がモノを言う」と笑う。競合は社内にもいるわけだ。

 ユーザー企業にとってIT化で乗り遅れることは、生き残り競争を苦しいポジションで戦わなければならないことを意味する。情報システム・ユーザー協会(JUAS)がこのほど行ったアンケート調査「企業IT動向調査2005」を見ても、IT投資は増大している。企業規模別に見たIT予算の対前年度比では、「10%以上増加」と回答した企業は、従業員100人未満の中小企業(回答企業62社)で32.3%、100人以上999人未満の中堅企業(同467社)で30.4%、1000人以上の大企業(同246社)で28.5%といずれも高い比率を占めている。

 ちなみに「10%未満減少」と「10%以上減少」のいずれかに該当し、IT予算を削った企業の比率は100人未満の中小企業が30.6%、100人以上999人未満の中堅企業が33.7%、1000人以上での大企業でも35.%を占めている。IT装備を終えたとも言えるし、業績に対応し削減を図ったとも言える。しかし、ベンダーやSIの多くが指摘するように、「単価の引き下げによる、IT装備のための総コスト抑制を図る企業が多い」ということを表しているように見えてくる。

 そう見る根拠となるのが、IT動向調査に見る企業の業績別のIT予算対前年度比のアンケート結果だ。増収増益となった企業(同303社)でIT予算を「10%以上増加」と回答した企業の割合は34.3%。増収減益(同118社)の場合は32.2%、減収増益(146社)は28.8%といずれもIT投資に積極的だ。また、減収減益と回答した企業(158社)の27.8%はIT投資を「10%以上減少」と回答しているものの、20.9%の企業は逆に「10%以上増加」と回答している。業績が悪化していても、時代の流れには逆らえず、競争に加わるためにはIT装備は不可欠となっているわけだ。

■「スキルの向上」が課題

 ユーザー企業にとって業績が伸び悩むなかで、IT装備を続けるためにはプロジェクト単価の引き下げを要求するしかない。そして、経済環境から見れば、ハードウェア単価の大幅下落とともにソフト開発やSIにも、ディスカウントの波は押し寄せてくるのは当然の成り行きだ。

 しかも、このIT動向調査でユーザー側のシステムベンダーに対する不満のトップは、「企画提案力不足」という厳しい結果が出ている。アンケートに回答した企業で不満項目の1位に挙げたものを2点、不満項目の2位としたものを1点とする評価点方式で見ると、「企画提案力不足」の点数は132点。「見積もり金額の妥当性が不明」と「こちらの指示への対応以上の仕事をしていない点」を不満としたポイントはいずれも60点であり、その不満度合いは高い。

 地方SIを取材して聞く話の多くは、「スキルの向上」だ。本拠地を地方に置くせいで、「最新の技術情報に乗り遅れるのではないか」という不安が常に念頭にあるという。そのため、社員を下請けで参加する首都圏のプロジェクトに送り込んだりして、最新の技術動向に対応させているケースも多い。

 市場動向や技術動向に対応していなければ、企画提案力に限界が生じるのは無理もない。ユーザーがITの知識を持ちベンダーを評価する。「安くていいもの」を作ることが求められている。ユーザーの意識が変わることで、市場環境は大きく変化してきた。今後もこの傾向が強まることは確実だ。その意味でソフトベンダー、SIは転機を迎えている。もちろん変化への対応を求められているのは、大手ベンダーも同様なのである。
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