情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第45回(最終回) まとめ 市町村合併「特需」が終焉
2005/03/28 16:18
週刊BCN 2005年03月28日vol.1082掲載
電子自治体構築も当面は、期待薄 「地元ベンダーの淘汰が進む」の声も
■大手ベンダー間だけのシェア争いに3月31日で、合併特例法の期限を迎える。新年度が始まる4月1日付で合併する自治体では、今まさに情報システムの最後のテストやチューニングに深夜、休日を厭わず情報システム担当者やベンダーが携わっていることだろう。合併を経験した自治体の関係者は、「テストまでは問題なくても、いよいよ本番という時になって障害が発生するのではないか」と不安感に駆られたという。ベンダーの合併担当者は、「土壇場になって新庁舎への引越しがあり、準備は万全と思っていても、その時になると必ずネットワークに機器がつながらないという問題が起きる」と、それぞれの立場なりに苦労はあった。
市町村合併を捉えて、IT業界は「合併特需」を期待した。ある地方のシステムインテグレータは、「これまで参入できなかった市場に進出するチャンス」、「ここ何年も動かなかったシェアが動く可能性がある」と期待は大きかった。
しかし、蓋を開けてみれば、「優勝劣敗がはっきりした。一言でいってしまえば、大手ベンダー間だけのシェア争いになった」と、中堅以下のベンダーは現状を維持するのが精一杯。対等合併なら可能性はあるが、吸収合併で吸収される側の自治体システムを担当するベンダーは、「最初から競争にも入れない」という悲惨な状況が全国で展開された。
合併特例法の期限までの最後の1年は、パワーのある大手のベンダーでさえも「時間との勝負」に焦りを見せた。市町村合併はプロジェクト1件の規模が大きくなると同時に、ユーザー数が少なくなるという厳しさもある。総務省の発表によれば、99年3月31日に3232あった市町村は、05年3月末で2522に、そして計画通りに進めば06年3月末には2231と、7年間で1001も自治体数が減ることになる。その分、ユーザーが減少するわけだ。
大手ベンダーはシェアダウンを避けるために、「人」も「金」も投入して合併プロジェクトに奔走した。当初は、「合併案件は全て取るつもりでいく」としていたが、時間を経て、「期限内で間に合わせるならば、『最低限必要なことにとどめて欲しい』とユーザーを説得しなければならなくなった」と必死の形相に変わっていった。合併まで、システム統合に必要な期間は最低1年──というのが大小を問わずシステム統合に関わる担当者の一致した考え。しかし、それよりはるかに短い期間で実現しなければならなかったケースは少なくない。
こうした苦労にもかかわらず、合併特需という言葉そのものが幻のようになってしまった。ある大手ベンダーの責任者は、「市町村合併にともなう情報システム統合で得たノウハウを生かすところもない」と苦笑する。システムエンジニア(SE)を集中投入したり、地域ベンダーのパワーをかき集めたりした後に何が残ったのだろうか。
■市民の利便性向上目指すIT導入
電子自治体構築は、ワンストップサービスの実現や24時間365日オープンに対応するために不可欠だ。これまでにもICカード利用による地域通貨や証明書交付の簡素化などの実証実験や本格運用が各地で行われてきた。実証実験の終わりとともに、ICカード利用をやめた自治体もあるが、さらにアプリケーションを拡大して住民サービス向上に活用しようという自治体もある。さらに新たにICカードを発行するのではなく、住民基本台帳カードにアプリケーションを搭載しようという動きも出てきた。
東京都荒川区では、住基カードに料金のチャージ機能を搭載。区立の遊園地「あらかわ遊園」にある乗り物の料金支払いなどに使えるようにした。住基カードを使った遊園地でのお金のチャージ機能もその一環。区の担当者は、「入場者の少ないあらかわ遊園の入場者増加と住基カードの配布枚数拡大に役立つだろう」と見ている。
住基カード普及のために、サービスメニューを増やしているのが岩手県水沢市。現在、市立病院の診察券など8つのアプリケーションを搭載している。さらに周辺市と、住基カードに搭載したアプリケーションの地域利用の実証実験にも乗り出した。水沢市ではそれまで独自のICカード「Zカード」の普及を進めてきた。これを住基カードの発行とともに転換し、住基カードをメインに活用することを決めた。ただ、住基カードにアプリケーションを搭載するには、議会での条例制定が必要、というのが手続きの上でネックになっている面もありそうだ。「やはり個人情報流出の懸念を議会で指摘される」とは多くの自治体の情報政策担当者の弁。個人情報保護法の全面施行で、住基カードへのアプリケーション搭載がさらに厳しくなるかも知れない。
市町村合併にともなうシステム統合プロジェクトはあと1年は続く。05年3月末までに合併の議会決議が終わっていれば、特例法の対象となるためだ。システム統合プロジェクトが峠を越え、次は電子自治体構築のための新システム導入といった案件に結びつくのだろうか。
多くのベンダー関係者が、それには懐疑的で、すぐに新たな自治体IT化ビジネスが拡大することにはつながらないだろうと見る。さらに市町村合併の峠を越えたところで、「これから地元ベンダーの淘汰が進むのではないだろうか」という厳しい見方も出ている。(おわり)
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