総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>21.青森ヤクルト販売(下)

2005/03/28 16:18

週刊BCN 2005年03月28日vol.1082掲載

 青森ヤクルト販売が、PDA(情報携帯端末)など最新のITを活用して業務改革を急ぐのは、ヤクルト独特の販売手法をより強化するためだ。ヤクルトの商品は、ヤクルトレディによる訪問販売が基本。青森ヤクルト販売でも約600人のヤクルトレディが、日々訪問販売を行っている。訪問する時間帯は朝9時から午後3時までと決まっており、この限られた時間内により多くの接客をこなすためにITの力を大いに活用している。

接客時間の拡大が顧客満足度向上へ

 青森ヤクルト販売が日常的に扱っている商品は、飲料、健康食品、化粧品など200種類余り。これらを売り込むビジネスチャンスは、「接客のなかから生まれてくる」(青森ヤクルト販売の会津博・営業部営業推進課係長)と、顧客と接触する時間が長ければ長いほど、顧客の需要を的確に引き出し、最適な商品を提案することができる。顧客の要望を詳細に聞き込むことが売上増に結びつき、顧客満足度も高まる。

 ヤクルトレディは、1人あたり100-200件の法人や世帯、個人などの顧客を担当している。限られた時間のなかで商品を配達するだけでもたいへんな作業だ。これに加えて顧客管理や在庫管理などに時間を取られていては接客時間が減少し、売り上げダウンにつながりかねない。「単純に商品を顧客に届けるだけならば宅配便を使えばいい。ヤクルトレディの本来の仕事は、顧客の要望を丁寧に聞き出すこと」(同)と、接客時間を少しでも多く確保するために、ITの積極的な活用に踏み切った。

 PDAを導入してからは、顧客情報や売上明細などがその日のうちに青森ヤクルト販売の本部に集まるようになった。売上明細に関する情報をコンピュータで集計し、需要動向や売れ筋の分析に役立てる。日々上がってくる膨大な売上明細を手作業で分析していてはとても処理が間に合わない。コンピュータを導入したことで、市場動向に対する分析スピードが格段に向上した。

 ヤクルト飲料の有力ターゲットである子供は少子化で減少し、世帯数や人口そのものも減少傾向にある。売り上げを維持するだけでも相当な工夫が必要だ。ITで業務効率を高め、少しでも接客時間を増やし、顧客の要望を丁寧に集める。その情報をコンピュータで詳しく分析し、販売戦略を立てて現場に還元する。こうした循環を創り出すことで、厳しい市場環境のなかでも「成長を目指す」(同)考えだ。

 こうした一連の販売管理システムは、青森県に本社を置くシステムインテグレータのビジネスサービス(山岸昌平社長)が構築した。同社は、システム構築に加えて、インターネット接続プロバイダやデータセンター、携帯電話などモバイル機器やサービスの販売、パソコン販売店の経営など多方面に事業を展開している。これらの事業は「ネットワークを活用したユビキタス社会をつくる」(赤石謙・ビジネスサービス専務)という共通テーマのもとに展開してきた。

 青森ヤクルト販売への提案では、ビジネスサービスが持つ流通小売業全般の業務ノウハウとPDAというモバイル機器を業務システムに応用するノウハウが評価された。モバイル端末からサーバーの保守運用までワンストップで一貫したサービスを提供できる点も他社との差別化になっている。

 ビジネスサービスの昨年度(2004年12月期)の売上高は約95億円。このうち携帯電話やパソコンの販売など個人向けの売り上げとシステムインテグレーションなど法人向けの売り上げが、それぞれ約半数を占める。携帯電話やパソコンの販売が比較的好調だった01年度(01年12月期)に過去最高の売上高108億円を記録したが、その後はハードウェアの単価下落や市場の飽和などで徐々に売り上げが下がった。

 ここ数年、携帯電話などモバイルを活用した付加価値の高いサービスや、自作パソコンや中古パソコンなどの利幅が見込める商材の拡充などで収益性の改善に取り組んでおり、「徐々に成果が上がりつつある」(同)と手応えを感じる。同時に、システムインテグレーションなど法人向けのビジネスでは、業務ノウハウやモバイル、IP電話、保守運用サービスなどを組み合わせた付加価値の高い提案に力を入れており、民需を中心に売り上げが拡大基調にある。青森ヤクルト販売などのような先進事例も多数出てきている。

 法人や官公庁などをターゲットとしたシステムインテグレーション事業を10とした場合、これまでは自治体などを対象とした官需が全体の約6割を占め、民間企業向けが約4割を占めていた。だが、税収の落ち込みなどから自治体など官公庁の投資は縮小傾向にある。ビジネスサービスでは、民間企業に向けたITを活用した経営革新を、これまで以上に強く提案していくことで、民需の掘り起こし、収益を拡大させていく考えだ。

 赤石専務は、「まだ学び取らなければならない点があるのではないかと、いつも考えている」と、顧客企業が抱える問題を解決する最善策を常に探求し続ける姿勢が大切だと指摘する。ITを活用し、顧客企業の業績が伸びれば、また次のIT投資に結びつく。この好循環をさらに押し広げられるよう努めている。(安藤章司)
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