e-Japanのあした 2005
<e-Japanのあした 2005>28.e-文書法施行(上)
2005/03/21 16:18
週刊BCN 2005年03月21日vol.1081掲載
ワープロやパソコンの普及で、あらゆる文書が電子データとして作成されるようになったが、それら文書の多くは紙に印刷して“書面”でやり取りしたり、保存したりしているものが多い。電子データのままでは直接見ることができず、改ざんもされやすいためで、法令によって書面にすることが義務付けられてきたものも多く、紙を全く使わずに業務や手続きを完結させるのはまだ難しいのが実情だ。
政府は、最初から電子データで作成された文書は電子データのまま扱える環境をまず整備してきた。国税関係の帳簿書類は、財務省所管の電子帳簿保存法(1998年7月施行)によって、自己が最初から一貫して電子的に作成したものは税務署長の事前承認などを条件にそのまま電子的に保存することが可能となり、医療機関の電子カルテも厚生労働省の通達(99年4月)で電子媒体のままで保存できるようになった。
民間同士でやり取りされる書面も、IT書面一括法(01年4月)と電子署名法(同)で電子データのままで扱えるようになり、電子契約法(01年12月)によって電子データをやり取りする時の基本ルールが定められた。行政が扱う書面は行政手続オンライン化3法(03年2月)で対応、電子データで作成された文書だけを扱う分には環境はほぼ整ったといえる状況だ。
しかし、現状ではすべての文書が電子化されているわけではない。電子商取引で契約から決済まですべて電子データでやり取りしている企業でも、納品書や領収書まで電子化したという話はまだ聞かない。将来的にはすべての商品に電子タグが貼られ、その中に電子納品書を格納できるようになるかもしれないが、そうした仕組みができるにはまだ時間がかかるだろう。その間、それらの書面を紙のままでしか扱えなければ、紙を保管するスペースが必要になり、相手に文書を送る場合も書面だけは“別途郵送”という状況が続くことになる。
昨年11月に成立したe-文書法、正式名称「民間事業者等が行う書面の保存などにおける情報通信の技術の利用に関する法律」は、紙から電子への橋渡し役となる法律と位置付けることができる。法律制定を働きかけてきた日本経済団体連合会(日本経団連)は、紙の保管コスト削減による経済効果を強調してきたが、ポイントは紙で作成した文書が原則としてすべて電子データとして扱えるようになることだ。すでに昨年3月に岡山県で始まったパスポートの電子申請では、旅券に印刷される手書きの「署名」をスキャナで読み取って電送することが認められたほか、今月から始まる不動産のオンライン登記でも紙の売買契約書をスキャナで読み取って「登記原因証明情報」として送付することが可能になる。しかし、いずれも文書を作成した本人が、自らの電子署名を添えて送付するケースだ。
e-文書法では、第3者が作成した書面も一定の要件のもと電子データとして扱えるようになるわけで、その意義は大きい。しかし、第3者が作成した書面を電子化して扱うことについて、今年1月に経済産業省が公表した「文書の電子化を促進するための企業向けガイドライン」では、漏えい、消失、改ざんにより保存当事者以外に影響を及ぼしうることも懸念されるため、「一定の配慮を加えることが必要」と指摘した。企業Aが作成した紙の領収書を、受け取った企業Bが改ざんしたあとに電子保存して元の紙の領収書を破棄した場合、どちらが改ざんしたかを立証するにも、共通の証拠物件が残されていないという問題が生じるからだ。そうした問題点も踏まえて、e-文書法対応で最も注目されている国税関係書類の電子保存について、財務省、国税庁はどう対応しようとしているのか。次回、紹介する。
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