情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第41回 東京都調布市 行政の積極関与廃した「調布方式」
2005/02/28 20:43
週刊BCN 2005年02月28日vol.1078掲載
市民参加で地域情報化計画策定 地場産業振興やIDC誘致も
■電通大スタッフが委員会をリード調布市が地域情報化計画の策定を意図して、そのための懇談会を設けたのが〝e-Japan計画前夜〟の2000年7月。すでに先進的な自治体では、高速ネットワークの整備や業務の電子化を目指した情報化計画策定が次々と策定されていた。調布市が経過策定で遅れた理由について、鈴木孝一・調布市総務部情報管理課長は、「地方と違いネットワークインフラは充実していた。さらに庁内業務についても、ホストコンピュータを中心にアプリケーション開発するスキルや他自治体とのシステム共同開発で業務効率化を進めていたため」と説明する。
実は、96年に策定されていた調布市基本計画では、「情報化についても進めていく、という項目は盛り込まれていた」(鈴木課長)のだという。ネットワークの伝送速度をはじめとして、ITが驚異のスピードで進化するなかで、何を始めるかの判断に困る面もあったそうだ。かつて調布市では、電子会議室や市民との対話に「パソコン通信」を使いかけたことがある。「実現間近になってウィンドウズ95が登場し、いつまでもパソコン通信でもないだろうということになった」(鈴木課長)ために、急遽計画を変更したという苦い経験がある。
今回の情報基本計画策定にあたっても、IT先進自治体である神奈川県大和市や、調布市の隣の三鷹市などの実例も参考にしたという。そうした検討の結果が、「最初から市民参加型で」作った情報化基本計画というわけだ。鈴木課長は、「調布方式とでも呼んでもらえれば…」と苦笑しつつも、独自の取り組みをアピールする。
02年3月に本格的に始動した調布市地域情報化基本計画策定委員会の中心となったのが、調布市内にある電気通信大学。ITに関しては本家本元の電通大の教授らが検討会や委員会をリードし、積極的に市民参加を促してきた。調布市地域情報化基本計画策定委員会の下部組織として、テーマごとのワーキンググループ(WG)ができた。これも市民の自主的な活動からできたものだ。それぞれ討議する内容によって、「WG1市民参加型」、「WG2地域情報環境」、「WG3地域産業の活性化」、「WG4人と情報」、「WG5図書館WG」などがある。
■企業もビジネス度外視で協力
各WGの構成メンバーは電通大の教官のほかに、市内の商店主や学生、主婦など。いずれも昼間は仕事や学校があり、WG活動は夜がほとんど。調布市も市の施設を提供するなど協力した。市の職員が参加する時は、管理職は市からの情報提供の責任を帯びるため市の職員として出席するが、それ以外は個人の資格で参加した。
企業も、松下電器産業、NTTドコモ多摩支店が協力したが、これもビジネスを度外視したボランティア。徹底的に市民中心の活動を行った。WGの中には、「最盛期で50人から60人規模になったところもある」(鈴木課長)とか。
それでも最初は市民を勧誘しても、「ITなんて分からないとか、時間を拘束されるなど及び腰だった」(同)という。しかし、ITが分からないからこそデジタルデバイドを排除した地域情報化を目指すことができ、忙しい市民の生活サポートに、地域のITにどう貢献できるかを真剣に議論できるのではないだろうか。調布市が目をつけたのはここだ。
市民が中心となった活動は、計画策定委員会が活動を終えても、調布地域情報化コンソーシアム(CLIC)に発展。04年9月にはNPO(特定非営利活動)法人にもなった。
地域情報化計画策定の過程で、さまざまな意見が出て計画に盛り込まれた。その1つがIDC(インターネットデータセンター)の誘致であったり、防災をバックアップするための情報化であったりする。調布飛行場の存在や交通の要衝としての実績から、万一の大災害発生時には、「避難場所や支援物資の受け入れ拠点として協力できる。それに備えたITも必要になる、という発想もある」(鈴木課長)。行政が中心となって情報化計画をまとめていないだけに、突飛な発想も出てくるようだ。
鈴木課長によれば、「目から鱗が落ちる」こともしばしばだとか。他の自治体には少し遅れはとったかもしれない。だが、市民生活に直結した情報化基本計画として市民の支持は得られると調布市では考えている。
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