e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>24.情報経済・産業ビジョン

2005/02/21 16:18

週刊BCN 2005年02月21日vol.1077掲載

 経済産業省が、産業構造審議会情報経済分科会で「情報経済・産業ビジョン」の策定作業を進めている。1月末に公表された骨子のキーワードは「ITで社会・経済を『強く』する」。3月中に報告書を取りまとめる予定だが、停滞が続く日本のIT産業に刺激を与えるIT政策の新しい方向性が打ち出されることが期待されている。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 経産省の情報政策を振り返ると、1970、80年代は国産コンピュータ計画に代表されるハード中心の産業政策が有効に機能してきた。しかし、90年の日米構造協議の後はソフト分野への転換が思うように進まず、電子商取引の推進もブロードバンド化など情報通信インフラの整備が遅れていたために十分に効果を発揮できなかった印象もある。2001年からスタートしたe-Japan戦略で、世界で最も低価格なブロードバンド環境が実現し、第3世代携帯電話やデジタル放送などの基盤も整ってきた。ようやくITが日本の経済・産業を「強く」していくための政策ツールとして積極的に活用できるようになりつつある。

 一方、日本のIT産業は、収益力をみても「強さ」を発揮するにはほど遠い状況が続いている。経産省が04年10月に公表した政策ペーパー「情報家電産業の収益力強化に向けた道筋」でも、現状のままでは価格競争の激化による収益悪化が避けられないと指摘していたが、今年に入るとソニー、富士通などが相次いで業績下方修正を発表するなど脆弱な経営基盤を露呈した。最近のビッグニュースで、堀江貴文社長率いるライブドアのニッポン放送株取得は、ITと放送の連携による新しいビジネス戦略の可能性を期待させる出来事。昨年話題となったプロ野球問題と同様に、IT企業との連携で放送ビジネスがさらに「強く」なる可能性があるなら提携を前向きに考えていく必要もあるだろう。

 情報経済・産業ビジョンの問題意識は、従来の供給者サイドの考え方に基づく部分最適の手法は限界に来ており、顧客価値の実現をめざす全体最適が競争力を「強く」する基礎になるのではないか、との考え方だ。この全体最適を実現していくには、製造業なら生産・流通・保守・廃棄まで電子タグを使ったシームレスな情報共有基盤、情報家電なら松下電器産業のTナビのようにテレビから簡単にインターネットを利用できる環境、医療分野なら電子カルテやレセプトのオンライン基盤というように、新しいモノ・サービスを提供するための“プラットフォーム”を構築する必要が出てくる。しかし、電子タグも、誰かが付けたものなら利用するが、自らは電子タグをなかなか付けない企業が多いのが実情だし、電子カルテも、病院内の利用なら導入しても、カルテを外部保存してオンライン利用するとなると消極的になってしまう。「誰が“プラットフォーム”を構築するかとなると、互いににらみ合って身動きが取れない状態に陥ってしまう」(村上敬亮・商務情報政策局情報政策課課長補佐)のが現状だ。

 もし共通のプラットフォームを構築することができれば、そのプラットフォームの信頼性を維持・向上させるために利用企業は情報セキュリティや個人情報保護などの投資も積極的に行うことが期待される。さらに、プラットフォームを通じて顧客への情報公開が進むことで、外部からのさまざまな客観的評価が加えられ、企業自身の内部改革も促進される。それによって日本の経済・産業が「強く」なっていくというシナリオだ。そのためのプラットフォームを誰がどのように構築していくのか。その解決策を導くことができなければ、せっかくのビジョンも絵に描いた餅に終わってしまうことになる。

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