情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第38回 福岡県久留米市 “新生”久留米市が2月5日に誕生

2005/02/07 20:43

週刊BCN 2005年02月07日vol.1075掲載

 久留米市は2005年2月5日に周辺4町と合併した。住民基本台帳や税務に関わる主要な情報システムは、旧久留米市のコンピュータに統合する方式で稼動に漕ぎ着けた。来年度以降は、合併による情報システムの統合作業のために延期になっていた電子申請や文書管理システムなどの電子自治体関連システムの構築作業に着手する。「地域医療連携ネットワーク」(仮称)の実現も目指す。(安藤章司)

情報基盤の整備が本格化 地域医療連携ネットワークも実現目指す

■1市4町の情報システムを統合

 旧久留米市は、04年4月に電子自治体の業務基盤となる文書管理システムを稼働させる計画を立てていた。しかし、03年夏頃に周辺自治体との合併の話が持ち上がったため、文書管理システムの開発を一時凍結した。合併に伴う情報システムの統合作業に集中するため、情報システム関連のリソースを極力分散させないためだ。

 合併に関するシステム統合の作業量は膨大だった。旧久留米市のシステムへの統合では、各町の住民情報のコード統一などある程度の困難は想像していたものの、到底、片手間でできる作業ではなかった。合併に向けた情報システムの統合を検証した結果、さまざまな課題も浮上してきた。例えば旧久留米市が住民や法人などの管理に使っていたコードが、合併によって不足することが明らかになった。

 個々の業務についても詳細に見直したところ、税金の支払い方法や時期など情報システムが密接に絡む業務の差異が次々に浮き彫りにされた。03年夏頃から、合併を想定した情報システムの検証作業に着手し、04年4月には実際のシステムの手直しや改修作業を始めた。

 05年2月5日に合併して誕生した新・久留米市では、「来年度に向けて、新しい久留米市に相応しい住民サービスの拡充に力を入れる」(猪口徹・久留米市総務部情報政策課課長)と、ITをフルに活用して住民サービスの向上に全力を注ぐ。この1年あまりの期間、「とにかく合併日までに1市4町の情報システムを統合させること」(同)が至上命題だったため、それ以外の作業は先送りになっていた。この遅れを取り戻す勢いで、久留米市では高度情報化に取り組む。

 まずは、電子自治体を実現する上で欠かせない電子申請と文書管理システムの導入に向けた検討を来年度から本格的に再開する。

photo

■約600か所の医療機関で情報共有へ

 福岡県では、県内市町村が共同で利用できる電子申請や文書管理システムを立ち上げる準備を進めている。この共同利用では、福岡市や北九州市などが「財政的な利点が少ない」ことなどを理由に参加しない方針を示しているが、久留米市は「市民の利益に合致すること」(同)を条件に、電子申請システムについては参加する方向で調整を進めている。

 福岡県では、06年4月に文書管理システムの共同利用をスタートし、06年度中に電子申請システムの共同利用を始める方針を示している。久留米市は、福岡県と歩調を合わせる格好で、06年度中には電子申請システムの利用開始を目指す。電子申請システムとも連携する文書管理システムについては、共同利用方式にするのか、独自で開発するのかは未定であるものの、07年度中には稼働させる方向で準備を進めている。

 また、県では自治体が開発した業務アプリケーションやその部品を再利用したり、共同で利用したりすることで開発コストを軽減する「電子自治体アプリケーション・シェア推進協議会」を、岩手県や宮崎県など7県2市と協力して04年11月5日に立ち上げた。この協議会では、Javaの業務アプリケーション向けプラットフォーム規格であるJ2EEをベースに、アプリケーションや部品の再利用や共同利用を推進している。

 久留米市では協議会の方針を踏まえて、「コスト削減などの効果が見込める部分からJ2EE基盤の活用を検討する」(猪口課長)と県の方針に理解を示す。J2EEという標準プラットフォームを基盤とすることで、特定のベンダーや商品に依存しない情報システムの構築にも道筋がつく。これまでは大手システムベンダーへ発注する傾向があったものの、J2EEの技術力がある地場の有力システムベンダーへの発注を増やすことも可能になる。

 これまでの経緯から、今すぐに100%Javaに切り替えることは困難だが、業務アプリケーションや部品の再利用、特定ベンダー依存の軽減は、解決していかなければならない課題の1つである。

 一方、久留米市独自の取り組みとして「地域医療連携ネットワーク」(仮称)を立ち上げる。市内には久留米大学病院や聖マリア病院など高度医療を提供している病院があり、さらに入院施設を持つ中規模病院は旧久留米市内だけで約30か所、中小の医科や歯科、整体などを合わせると約600か所もある。「地域医療連携ネットワーク」では、06年度中にもこれら医療機関を順次ネットワークで結び、医療情報の共有化を目指す。

 現在、患者の診療履歴やカルテに書き込まれる情報のほとんどは診療を受けた病院内に留まっている。地域医療連携ネットワークが実現できれば、初めて診察する患者を担当する医師や、急な外来が中心の救急病院の医師は、ネットワークを経由して患者の過去の病歴やアレルギーなど、治療に不可欠な情報を得られるようになる。

 久留米市では、電子自治体の推進や地域医療連携ネットワークなど、福岡市や北九州市と並ぶ中核的な都市として相応しい情報基盤の整備、高度医療機能などの充実を進める方針だ。
  • 1