情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第37回 福岡県福岡市 電子申請システム立ち上げへ

2005/01/31 20:43

週刊BCN 2005年01月31日vol.1074掲載

 福岡市は、2005-07年度の3か年で電子申請・届出の受付サービスの開始などを柱とした高度情報化を推進する。3か年の計画では、電子申請システムと文書管理システム、財務会計システムの3つをシステム整備の重点に位置づける。電子申請、文書管理システムは新しく構築し、財務会計システムは大幅に刷新する方向で検討している。維持経費が割高なホストコンピュータからの脱却も視野に入れる。(安藤章司)

文書管理、財務会計も大幅刷新 来年度からの3か年計画で実現目指す

■06年度中にも一部受付サービス開始

 来年度からの3か年の計画では、電子市役所化の推進により力を入れる。電子申請・届出の受付サービスは、来年度から設計、開発に取りかかり、早ければ06年度中に一部受付サービスを始める方向で検討している。これと並行して業務効率を高め、なおかつ電子申請システムを円滑に運営するために、新しく文書管理システムを導入する。既存の財務会計システムも大幅に刷新する。

 福岡市では00年にグループウェアを導入し、掲示板や文書共有などに活用しているものの、電子申請システムから入ってきた申請・届出書類を決裁するワークフローの機能は備えていない。このため、新しく導入する文書管理システムは、電子申請システムで受け付けた申請・届出書類を担当者が決裁できるワークフローシステムを確立させる。

 決裁をより確実に行うため、ICカードなどを活用した職員認証基盤も新しく作る方向で検討している。これまではIDとパスワードのみの認証だったが、安全性が高いICカードを使えば、より確実に認証ができる。

 また、現在使っている財務会計システムは、旧式のホストコンピュータで運用しているため、インターネットを駆使する最新の電子申請システムと連動できない。申請・届出のなかでは、手数料の発生するケースも少なくなく、これに対応するためにはインターネットに対応したオープンシステムへ切り替えが必要となる。

 財務会計システムは、夜間にバッチ処理するホストコンピュータで運用しているため、利用時間が午前8時45分-午後5時15分までと限られているのに加え、専用端末からの操作になるため利便性が低かった。繁忙期は午後6時まで延長するなどして対応しているものの、操作するとき、担当職員が席を離れて専用端末まで移動しなければならないケースが発生している現状は、業務効率向上の観点から改善する必要がある。

 電子申請システムの導入により、財務会計システムの手直しが必要になったタイミングで、利用時間の制限がないリアルタイム処理のオープンシステムへ移行する方向で検討を進める。オープンシステムならば、職員が自分の机の上に置いて日常的に使っている通常のパソコンからの操作も可能だ。専用端末との間を行き来する必要はなくなる。

 現在、財務会計用の専用端末だけで庁内に約250台ある。担当職員のなかには、移動時間を節約するため、机の上にパソコンと専用端末の2台を並べて作業しているケースも見られるという。「電子申請システムの立ち上げだけが目的ではなく、こうした使い勝手の悪さを解消し、作業効率を高める狙いもある」(宮川泰成・福岡市総務企画局情報化推進室情報企画課主査)と、財務会計システム刷新の必要性を話す。

■運用コスト削減にオープン化不可欠

 福岡市では、住民基本台帳を管理するシステムや税務システムなどの大型システムにもホストコンピュータを使っている。今回刷新を検討している財務会計システムも含めて富士通製だという。将来は、維持コスト軽減のため、ホストコンピュータからオープンシステムへの全面的な移行を視野に入れているものの、費用面などの問題から具体的な期日を決めるまでには至っていない。

 今回、財務会計システムをホストコンピュータから抜き出す方向で検討を進めているものの、「住民基本台帳や税務の各システムに比べて、財務会計システムは小規模な業務システムであるため、ホストコンピュータの維持管理コストが劇的に下がるとまでは言えない」(宮川主査)と、維持運用費の抜本的な削減には住民基本台帳や税務の各システムのオープン化が必要との認識を示す。

 電子申請システムについては、現在、受け付ける申請・届出の種類の絞り込み作業の準備を進めている。福岡市は年間約600万件の申請・届出件数があり、このうち住民票や印鑑証明、納税証明、戸籍謄本および抄本の「4大申請」と言われる利用数が全体の約4割を占める約250万件に達する。

 ただ、いずれも証明書類を必要とするもので、最終的には利用者が市役所などの窓口に足を運ばなければならない。このため、「利便性がどこまで高まり、利用率がどれほど上がるのか検証する必要がある」(小林保彦・福岡市総務企画局情報化推進室情報企画課主査)とし、システムの構築方法も含めて検討の余地があると考える。

 福岡県では県内市町村と共同して、電子申請や文書管理システムの共同利用を推進しているが、福岡市では04年10月、開発コストの軽減など財政的なメリットがないとして、共同利用には参加しない方針を打ち出した。このため、電子申請や文書管理などのシステムは福岡市独自の予算で開発することになる。

 福岡市では、04年6月から所得証明や納税証明など税務関連の証明書の発行予約サービスを始めた。だが、これらのサービスは、文書管理や財務会計システムと連動するなどの基盤設計をせず、低コストで簡易的に開発したものであるため、「電子申請」ではなくて「予約サービス」と位置づけている。今後は、先行する予約サービスで学んだノウハウも踏まえて、利便性が高い電子申請・届出の受付サービスを実現していく方針だ。
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