総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>12.三松(下)

2005/01/24 16:18

週刊BCN 2005年01月24日vol.1073掲載

 板金加工業界は、多品種少量生産の傾向が1990年代から鮮明化していた。三松(安岡貞勝社長)はこの動きに対応するため、約5000万円の投資を行い90年代初めにオフコンをベースとした生産管理システムを導入した。だが、システム化に伴う業務改革が進まず、同システムの威力を発揮することなく一部機能を除いてお蔵入りしていた。

業務改革ありきでIT化を推進

 市場環境は日々変化していた。年を追うごとに多品種少量生産の動きは加速し、これまでの紙と鉛筆をベースとした生産管理方式では納期に間に合わなくなるのははっきりしている。三松は、オフコン導入に失敗した苦い経験をテコに、95年頃から再び生産管理システムの立ち上げに取り組んだ。

 三松がまず取り組んだのは“業務改革”である。陣頭指揮を執った三松の田名部徹朗・常務取締役は、「情報システムが先にあるのではなく、情報システムに対応できる社内の意識改革や業務改革を優先すべき」と、まずは三松に適した生産管理の在り方そのもの探求に着手した。

 前回のオフコンベースの生産管理システムでは、生産管理の在り方の議論がないまま情報システムを導入。その結果、システムを活用する基盤が社内に定着せず、気がついたら「紙と鉛筆」に逆戻りしていた。そこで2度目の挑戦では、業務の在り方そのものを見直し、業務をさらに効率化するためのツールとして情報システムを導入するという手順に変えた。97年頃からまず実行したのが、紙のカレンダーを使った納品管理だ。たとえば1月24日に納品する商品を4ケタの製品番号で表し、カレンダーの24日の欄に掲示する。当時は1日に納品する商品の種類は10-20種類だったため、1日あたり30分もあればカレンダーに商品番号を掲示することができた。社員は、何日までに何を納品しなければならないかをカレンダーでチェックしながら生産に取りかかる。

 タイミングを見計らって、この製品番号をマイクロソフトのデータベースソフト「アクセス」に移し替え、作業場内に置いた複数のパソコンから参照できる仕組みをつくった。このとき初めて事務所や作業場にLANを敷設した。このLANが現在の社内ネットワークの基本となる。

 当時は、パソコンも安価になり、社内に複数台配置できるようになった。オフコンの専用端末が1台約100万円していたのに比べれば、当時で20万円程度のパソコンは割安な投資だった。納品管理をアクセスで行うようになり、社内ネットワークを経由して社員全員が情報を共有するようになってから、徐々にオーダーが増えてきた。

 多品種少量生産を進める顧客企業からの受注が増える一方、従来型の大量生産方式から脱却できない顧客企業からの注文は減っていった。97年当時、発注金額が多い顧客企業上位10社のうち、現在でも上位10社に残っているのは2社程度しかないという。この背景には、多品種少量生産にいち早く対応した顧客企業が業績を伸ばしたのに加え、三松が積極的に多品種少量生産への対応を進めたことなどが挙げられる。

 多品種で少量の受注を増やしていくと、先のカレンダーに製品番号を掲示する方法ではまったく対応できなくなり、必然的にアクセスを活用した納品管理が主流となった。「納品する種類が増えすぎて、限られたスペースしかないカレンダーに掲示しきれなくなったのに加え、人間の記憶のなかに収まる数量を遥かに超えてきた」(三松の石丸直之・企画管理部システム企画課課長)と社員全員が認識するようになった。

 昨年度(04年6月期)1年間の注文数は約8万件。今年度(05年6月期)は約10万件に増える見込みである。今年度見込みの約10万件を単純に営業日で割ると1日あたり400件近くに達する。このうち約7割が1個だけの単品生産の商品だという。限りなく受注と連動したリアルタイム生産に近い状態だ。

 99年にマイクロソフトのデータベースサーバー「SQLサーバー」を導入し、これをベースに三松独自の生産管理システム「サンマツ・インテグレーテッド・ネットワーク・システム(SINS)」を独自で開発した。アクセスをベースとしたもので、「最初はシステムインテグレータに発注しようと考えていたが、気が付いたら年間10万件のオーダーにも対応するオリジナルの生産管理システムができあがっていた」(同)と話す。

 多品種少量生産に本格的に着手する以前は、製品1個あたりに占める材料費の比率は約42%だった。しかし、昨年度はこれが約25%まで低減した。多品種少量生産による付加価値が増えたことで、商品全体の価値が高まり、相対的に材料費が減少したためだ。今年度の売上高は前年度比約12.5%増の18億円、経常利益は過去最高水準の1億1000万円を見込む。(安藤章司)
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