総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>10.IGLグループ(下)
2005/01/10 16:18
週刊BCN 2005年01月10日vol.1071掲載
家族の絆をITでより強いものに
IGLグループの団体のなかで、中核となるのが社会福祉法人の介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、学校法人の健康福祉専門学校や医療専門学校などである。広島県を中心にグループ全体の事業所数は約38か所あり、このうち社会福祉法人の事業所数が23か所を占める。社会福祉法人の顧客のうち、入居および施設を利用している実顧客数は約1700人、訪問介護など在宅福祉サービスを利用している実顧客数は約1500人となっている。2000年4月の介護保険法施行のタイミングで介護保険システムを導入して以来、本格的にITを活用した業務改善に取り組んできた。03年10月には、マイクロソフトのグループウェア「グループボードワークスペース」を導入。IGLグループ全体の意思疎通の改善に役立てている。
さまざまな事業所が混在し、形態の異なる複数の法人から構成されているIGLグループにとって“IGLらしさ”を保つためには、キリスト教の倫理観が欠かせない。IGLグループでは「平和、愛、人」をIGLの原点を表すキーワードとして掲げており、こうした理念はグループの隅々まで行き渡っていなければならない。
IGLグループの沖田英司・本部企画室長は、「IGLグループにとって、理念は憲法のようなもの」と、グループの経営方針や全行動の指針となっていると話す。それだけに、グループウェアの運用にあたっては、報告や連絡、相談などの単なる業務連絡だけではなく、グループの精神的な基盤であるキリスト教の精神を伝える重要な媒体として機能させている。
今後のIT投資の方向性の1つとして、グループの外と情報共有をする仕組みづくりを検討している。これまでの介護保険システムやグループウェアなどのIT投資は、いずれもグループ内の閉じた情報システムだった。
たとえば、介護老人保健施設や特別養護老人ホームには多くのお年寄りが暮らしている。その人たちにとって何よりも楽しみなのが、子供や孫といった家族と会う時間である。ただ実際には、施設やホームを頻繁に訪問できる家族とそうではない家族がある。共稼ぎでなかなか来られないケースもあり、入居しているお年寄りと家族との絆をより深めていくための施策が求められている。
入居している人の子供たちの多くは団塊の世代以降の年齢層で、パソコンを活用できる世代でもある。孫の世代になればほぼ確実にITを使いこなしている。こうした家族たちとの絆をより太くするためにITを活用できないかということが課題になっている。
まだ構想の段階だが、お年寄りの世話をしているスタッフが、1日の様子を専用のネットワーク上に書き込む。デジタルカメラで撮影した写真などを交えてもいい。日常の暮らしぶりをスタッフが家族にインターネットを使って伝えれば、家族の福祉に対する関心をさらに高め、施設やホームへ足を運びやすくなるとIGLでは予測している。
セキュリティが保たれた安全なネットワーク環境で、お年寄りとその家族の絆を深めるのに「ITを役立てる」(沖田室長)ことを検討しており、早ければ、2-3年のうちにお年寄りなどの利用者とIGLのスタッフ、家族のITを活用した情報共有を進めるという。このような取り組みを通じて、より品質の高い福祉サービスの提供に力を入れる方針だ。
IGLグループの情報システムを保守サポートする富士通サポート&サービス(Fsas、前山淳次社長)は、保守サポート業務の一環として、訪問する度にIGLグループの改善課題についてヒアリングを重ねている。
組織内における情報の共有、理念の共有を支援するグループウェアや、将来的に導入を検討している入居者と家族との絆をより深める情報システムなど、いずれもネットワークをフルに活用したITシステムである。このために業務改善を進めると同時に、これまで以上にセキュリティの強化が欠かせないとFsasでは考える。
例えば、マイクロソフトのウィンドウズサーバー2003とオフィス2003を組み合わせれば、ワードやエクセルなどで作成した文書を事前に許可したユーザー以外に閲覧させないセキュアなネットワーク構築が可能になる。身近なところからセキュリティの意識を持つことが「IT導入の重要な要素」(Fsasの工藤昭光・中国支社情報サービス営業部長)と、IGLグループのITを活用した業務改善への取り組みを支えている。(安藤章司)
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