総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>8.熊澤歯科クリニック(下)
2004/12/20 16:18
週刊BCN 2004年12月20日vol.1069掲載
ITリーダー育成で地域振興へ
戦前、旧満州(現中国の東北部)や樺太(現サハリン)との貿易で、小樽経済は活況を呈していた。その頃、赤尾社長の祖父が無線機器の販売事業を立ち上げたのが小樽赤尾電化の始まりだった。当時、無線機器は最先端の商材。外航航路の重要拠点でもあった小樽の発展とともに、販売事業は拡大した。戦後、2代目社長が松下電器産業の家電販売を手がけ、1980年代頃から徐々にオフコンなどビジネス機器の販売に切り替えた。現在の赤尾社長は3代目となる。赤尾社長は、厚生労働省の地域雇用機会増大促進支援事業で産官学連携の「小樽まち育て運営協議会」事務局長や、市内の中小企業が集まって組織した「小樽情報ネットワーク事業協同組合」代表理事など、産業振興に向けた公的な活動にも積極的に取り組む。マイクロソフトのIT推進全国会のメンバーにも参加している。
IT推進全国会は、マイクロソフトが01年10月から始めた「全国IT推進計画」の一環として組織した販売店網。全国で約300社のシステムインテグレータが参加している。マイクロソフトは02年10月から約1年間、大型トレーラーで全国47都道府県約150か所の主要都市を巡回。パソコンやソフトウェアに触れる機会を提供しIT化を推進する「IT体験キャラバン」を実施した。
このとき赤尾社長は、IT体験キャラバンが札幌市からスタートすると聞き、「地域のIT化が目的なのに、なぜ政令指定都市から始めるのか」と声をあげ、ITキャラバンの出発式を小樽市に変更することに成功した。当時のマイクロソフト社長の阿多親市氏が小樽での出発式に姿を現したときはの様子を「とても印象に残っている」(赤尾社長)と話す。
小樽市の人口は60年代頃から減少傾向にあり、経済成長も右肩上がりとは言い難い。小樽赤尾電化の昨年度(04年7月期)の業績は2期連続で減収減益と厳しかった。昨年度まで売上高の約6割の占めていた官公庁向けの売り上げが大幅に減少したことが響いた。
小樽市の官公庁関連の入札情報は、数年前からインターネットで公開されるようになり、競合会社が「一気に3倍に増えた」(同)という。小樽市は札幌市から電車で1時間ほどの距離。札幌市に拠点をもつ全国規模の大手システムインテグレータが入札に顔を出すことも珍しくなくなったという。
そこで小樽赤尾電化では、改めて民需の掘り起こしに力を入れ、今年度(05年7月期)は増収増益を目指す。03年10月に一般労働者派遣事業の許可を取得し、技術派遣の事業を立ち上げた。企業に技術者を派遣し、データベースの構築などを手がける。小樽市内には「50-100万円くらいの小規模なデータベース構築案件が意外に多い」(同)と、データベース構築事業の順調な立ち上がりに手応えを感じる。
小樽市の工業生産額では、海産物などの食品加工業の出荷額がその4割近くを占める。次には金属加工業などが続く。こうした事業者のなかには、札幌や東京の大手事業者と取り引きしている企業も少なくない。「大手がIT化すれば、これに歩調を合わせてIT化せざるを得ない」(同)状況になるという。これまでの電話やファクシミリによる注文から、インターネットを経由した受発注システムへの移行や、データベース、ネットワーク構築などの案件の増加が見込まれる。
こうした、いわば“外圧”に加えて重要なのは、「地域のITリーダーの育成だ」と赤尾社長は話す。小樽赤尾電化では、20人が一度に学べるパソコン教室を2つ、5人用の小さなパソコン教室を3つ持っており、自治体などにITリーダー育成の提案を行ってきた。この提案が小樽市に受け入れられ、今年8月にはITリーダー育成の予算を獲得した。来年1月までの期間で約900万円の予算規模である。
この予算を最大限に生かし、現在、地域や職場のITリーダー育成に取り組んでいる。パソコン教室は常に満室で、多くの顧客がITの知識を学びに来るようになった。こうした教室では、とかく技術的な知識に偏りがたちだか、小樽赤尾電化では、技術だけではなく、地域や職場の人たちにITの利活用の重要さを伝えるノウハウの習得に焦点を当てることにした。そのための教材も自分たちで制作した。
赤尾社長は、「IT技術者ではなく、あくまでもITリーダーを養成する。それにふさわしいコミュニケーション能力も重要」と、ITリーダーが中心となり、周囲の人々を巻き込んだIT利活用を促進する人材育成に力を入れる。
小樽赤尾電化がネットワーク構築を手がけた熊澤歯科クリニックでは、上浦庸司副医院長が職場のITリーダーになり、IT利活用を推進した。「ITの利活用が進めば、生産性が高まり、小樽経済をより活性化させることにも結びつく」(赤尾社長)と、ITリーダーの育成を通じた地域経済の活性化に取り組む。(安藤章司)
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