情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第30回 岩手県総合雇用対策局 若年層の就業支援事業をスタート

2004/12/06 20:43

週刊BCN 2004年12月06日vol.1067掲載

 ニート(NEET=ノット・イン・エンプロイメント・エデュケーション・オア・トレーニング)と呼ばれる、いわゆる“無業者”の若者やフリーターの増加が社会問題となっている。大都市ばかりではない。こうした問題は地方でも同様に顕在化している。自治体にとっては、地域の若者に十分な雇用を確保できるか、あるいは地元企業に対し必要とする人材をどうやってマッチングさせていくか──という問題につながる。岩手県は若者の雇用問題を解決するために総合雇用対策局を設置し、IT利用による求職支援活動に乗り出した。(川井直樹)

「ジョブカフェいわて」 富士通ほか2社が運営を受託

■適正を判断して仕事やスキルをアドバイス

 経済産業省を中心に政府は今年4月、「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)事業」を打ち出した。この事業に参加したのは全国15か所。岩手県もその中の1つだ。勝部修・岩手県総合雇用対策局総合雇用対策監は、「昨年6月、若者の雇用問題を解決するために、総合雇用対策局が2005年3月までの時限措置として設置された。何をするか検討を始めた時に、経産省のジョブカフェ事業構想が出てきた。そこに富士通などからの提案があり、参画することにした」と、「ジョブカフェいわて」設置の背景を解説する。

 岩手県にとって若年層の雇用問題は重要だ。増田寛也知事はマニフェストの中でも緊急課題として、「青森県境産業廃棄物不法投棄事案への取り組み」と「雇用対策」の2つを盛り込んだ。

 雇用問題については「21世紀型の新しい産業先進県」構築には欠かせない案件として、中小企業支援など様々な施策を講じてきた。若者の就職支援についても、「いわてヤングジョブサポートセンター」などの設置により一定の成果を収めている。ジョブカフェいわての設置では、このサポートセンターが母体となった。

 ジョブカフェいわては、増田知事が理事長を務める「ふるさといわて定住財団」が受託事業者となり、富士通、日本マンパワー、盛岡博報堂の3社が財団から再委託を受ける形で今年7月に事業がスタートした。15歳から30歳未満までの若者を対象に、これまでヤングジョブサポートセンターが行っていたカウンセリングや就業支援を行う。

 ジョブカフェいわてが入居するビルは盛岡市の繁華街のど真ん中。同じビルにはヤングハローワークやその他の就業関連施設もある。「カウンセラーは11人。祝日や年末年始以外の朝8時30分から午後7時まで開いている」(ジョブカフェいわての日高光昭・サービスマネージャー)。

 ハローワークとの違いは「就職の斡旋はしない」(同)ということ。「若者1人ひとりの適正を判断して、どういう仕事が向くのか、あるいはどういう仕事がしたいのか、どんなスキルを身につければいいのかなどをアドバイスする」(同)のが目的だ。その後の就職先の斡旋はヤングハローワークの仕事というわけだ。

 実は日高マネージャーは、もともと富士通盛岡支店の営業マン。現在は本人によれば「休職中」で、ジョブカフェの仕事にどっぷり浸かっている。ジョブカフェいわてには富士通製のパソコンが30台以上備え付けられており、適正診断やeラーニングに活用できる。もちろん富士通のインストラクターによるパソコン講座もある。ワープロソフトや表計算ソフトの基本的な使い方を教えている。「ワープロといった最低限のITスキルをつけるのが目的。高度な技能をつける講習ではない」(日高サービスマネージャー)というがジョブカフェらしさだろう。

■九州のサーバーで運営

 これら情報システムの中心となるサーバーは、盛岡市内のオフィスにはない。九州のIDC(インターネットデータセンター)にある「山口県のジョブカフェも富士通などが運営しており、そこが九州にあるサーバーを使っている。内容は同じなので共用している」(同)のだという。

 取材に訪れた日も、若者が次々にジョブカフェに訪れていた。1階の受付フロアでも数人の若者が面接シートに必要事項を書き込んでいた。中村謙一・ジョブカフェいわてセンター長兼キャリア・カウンセラーは、「仕事に就きたい若者が気軽に相談に訪れることができるスペースを作りたかった」としており、その目標は達成できているように見受けられた。

 岩手県総合雇用対策局の勝部対策監によれば、「バブル崩壊以降、中国への生産シフトなども手伝って岩手県から撤退した企業は38社あり、5000人が職を失った」という。今ではニートやフリーターの増加といった若者の雇用問題も加わった。「これまでの行政手法では解決にならない」との考えもあった。

 勝部対策監はかつて産業政策を担当しており、企業の撤退を当事者として口惜しく見ていた時もある。「雇用対策といえば厚生労働省の範ちゅう。経産省の事業で何ができるかという戸惑いもあった」(勝部対策監)が、富士通などの提案が力添えになったと語る。

 富士通にとって、自治体ビジネスの中でも岩手県は地元企業に押されて弱かったところ。「もちろん、ビジネスの背景がないわけではない」(富士通ビジネスマネジメント本部人材開発部の藤澤剛彦氏)。これで県に対する実績ができたことにもなる。ジョブカフェいわては、「経産省の事業が終わってもなくなるわけではない。年内には地元企業などの参加を募って、ジョブカフェサポーターズクラブを作るなど、新しいことに挑戦したい」(日高サービスマネージャー)とやる気まんまんだ。
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