総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>5.岩崎

2004/11/29 16:18

週刊BCN 2004年11月29日vol.1066掲載

 北海道で建設や土木、設計などに使う測量機器の販売などを手がける岩崎(札幌市、古口聡社長)は、自社の営業効率を高めるため、1992年頃から社内ネットワークを構築し、IT導入に積極的に取り込んできた。営業支援(SFA)システムの立ち上げ当初は、マイクロソフト・オフィスシリーズの中に含まれるデータベース管理プログラム「アクセス」を活用した簡単なものだった。このSFAの名称はセールスサポートシステムの頭文字をとって「SSS」(スリーエス)と名付けた。

IT導入で営業効率高める

 SFAや顧客管理(CRM)システムなどは自社開発しなくても、アプリケーションベンダーがパッケージソフトを発売している。自社開発するよりも、既存のパッケージソフトを購入した方が、開発リスクを負わずに済み、割安に導入できる可能性が高い。だが、あえてこうしたパッケージソフトは採用しなかった。

 この理由について岩崎の古口社長は、「既存パッケージは、受注に結びついた成功事例を蓄積するには便利だが、受注できなかった失敗事例の蓄積に弱い部分がある」と話す。自社開発のSSSでは、成功事例だけでなく失敗事例のデータも確実に追跡できるようにした。受注できなかった理由の分析に深く踏み込むことで、同じような失敗の繰り返しを防ぎ、受注能力を大幅に高めることを目指した。

 岩崎の業績は、97年度(98年9月期)の単体売上高108億円、経常利益3億8000万円から徐々に減少し、03年度(04年9月期)は売上高69億円、経常利益1億円まで落ち込んだ。公共事業の見直しにより、北海道における公共投資がこの10年で「半分に減少した」(岩崎の古口社長)ことが減収の最大の要因。北海道経済にとって公共投資は大きな比重を占め、なおかつ岩崎の主要顧客が建設や土木、設計など公共投資と深く関係する業界に集中していることが影響した。

 だが、厳しい市場環境のあおりを受けて同業者が苦しい経営を続けるなか、岩崎は減収となりながらも赤字を出さず、堅実な経営を続けてきた。これを支えたのが同業他社に先駆けて導入したSFAなど、ITを活用した仕組みである。

 公共投資の半減により、顧客である測量設計や建設会社のなかで、生き残れる企業と淘汰されていく企業の違いが、「より鮮明になってきた」(同)という。IT投資を通じて差別化を図り、次の時代に生き残ろうとする企業をいち早く察知し、受注に結びつけていくことが「成長に結びつく」(同)と考える。このためには、既存の情報システムに、さらに磨きをかけ、機能アップを図らなければならない。

 岩崎では、競争力を高めるため、既存のSSSの後継となる「WEB/SFAシステム」を03年10月に稼働させた。マイクロソフトの.NETフレームワークをベースとしたウェブ対応型システムで、02年に業務提携した地元、札幌市にあるソフト開発企業のノーザンシステム(上口義雄社長)と共同で開発した。完全ウェブ対応になったことで、北海道内に展開している12か所の拠点との情報共有がより容易になった。

 北海道は広く、岩崎では北は稚内市、南は函館市まで拠点があり、本社のある札幌から拠点までの移動時間が6時間近くかかるときもある。ウェブ化により、本社から離れた拠点の担当者と、「リアルタイムで同じデータ、同じ操作画面を見ながら話ができる」(ノーザンシステムの大野真澄・常務取締役)ようになったことで、戦略立案や営業行動のスピードアップに結びついた。

 さらに今年8月から、「WEB/SFAシステム」をパッケージ化し、外販にも着手した。今年度(05年9月期)は100セットを販売する目標を立てる。

 建設や土木、設計業界では、国土交通省が進めている「CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)」への対応などでIT化が急速に進んできた。岩崎では、これまで自社で培ったITや、ノーザンシステムとの業務提携などを通じて、顧客企業へのIT活用型のソリューション提案に力を入れている。

 だが、同時に、顧客のIT投資を活発化させるためには、顧客自身のITスキルの向上が欠かせないと判断。今年からビジネスに必要なウィンドウズ汎用スキルを取得する「ビジネス・ウィンドウズ・サーティフィケーション-カード(Business Windows Certification-Card)=BWC認定試験)」の活動に参加し、顧客企業のIT担当者にBWC認定資格を取得してもらうための支援を始めた。もちろん、顧客企業だけでなく自社の社員にも資格を取得させる方針だ。

「北海道の建設業は雪の降る冬季は比較的時間がある。冬の間にIT化に向けた人材育成に努めてもらえるよう支援する」(岩崎の古口社長)と、顧客企業のIT化に取り組む。BWCの活動に参加し、岩崎のこうした動きを高く評価するマイクロソフトの浅野秀昭・東日本営業本部北海道営業所所長は、「北海道の中堅・中小企業のITの利活用を促進する」と、岩崎など業種に強いパートナーとの協力を強化し、業種ごとのIT化を促進する方針を示す。

 顧客企業のIT化の動向や、自社開発の「WEB/SFAシステム」の拡販などを通じて、今年度(05年9月期)の単体売上高は前年度比13%増の78億円の売上高を見込む。(安藤章司)
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