e-Japanのあした 2005
<e-Japanのあした 2005>12.牛肉のトレーサビリティ(下)
2004/11/22 16:18
週刊BCN 2004年11月22日vol.1065掲載
焼肉店唯一の全国組織、事業協同組合全国焼肉協会では、昨年12月に会員焼肉店向け導入手引書を発行し、研修会も開催してシステム導入準備を呼びかけてきた。会員に対して導入メリットを打ち出そうと、トレーサビリティ制度に正しく対応している焼肉店を協会が認定して「トレサ君」マークを発行する独自の認証事業も始めることにした。しかし、会員459社(店舗数で約1500店)のうち、研修会に参加した企業は今年10月末までで225社(約700店)とほぼ半分にとどまっている。「トレサ君」の認証も、10月末の理事会で64社(211店)が承認されたばかりで、まだ会員全体の2割に満たない状況だ。
食肉小売店の対応はどうか。「大手スーパーのイオン、マルエツなどではシステム対応が完了したと聞いている」(農林水産省消費・安全局衛生管理課牛トレーサビリティ監視班)というが、やはり心配なのは個人経営などの中小・零細小売店だろう。約1万店の食肉小売店が加盟する全国食肉事業協同組合連合会では、農水省助成を受けて個体識別番号などを記録する帳簿をパソコンで管理できる専用ソフトを開発、会員に無償配布する準備を進めてきた。テラオカ、イシダなどの大手はかりメーカーとも連携し、仕入れ伝票の個体識別番号をスキャナで読み取り、計量したデータと一緒にパソコンに取り込めるなどデータ入力の負担を軽減できる機能も搭載した。しかし、10月末までに無償配布を希望した会員は約3000店と全体の半分以下。残りの会員は紙の帳簿で対応することになりそうだが、小売店にとってはシステム投資を行うのも、紙の帳簿管理を行うのも、いずれにしてもかなりの負担を強いられるのは間違いない。
「トレーサビリティを導入したからといって、牛肉の消費が増えるのか」──メリットが見えにくい最大の理由がこれだ。BSE問題が発生したあと、牛肉の消費量は一時、大きく落ち込んだが、国産牛については厚生労働省が全頭検査を実施しており、すでに安全性は確保されている。トレーサビリティシステムが本格的に動き出したからといって、消費量が増えるとは考えにくいからだ。さらに消費者が、パッケージに「BSE検査済み国産牛」と表示しただけの牛肉と「個体識別番号」も表示した牛肉をどれだけ区別して購入するかも未知数。トレーサビリティ実施店と未実施店とで売上・利益に格差がつくのかどうかを様子見している店舗がかなりの数に上っている可能性もある。
牛のエサに関する給餌情報、動物用医薬品の投与情報などを提供する「生産情報公表JAS規格」に取り組んでいる肉用牛農家の団体関係者からは、こんな指摘があった。「苦労して規格を取得し情報公開を実施できる体制を整備しても、その牛を1円でも高く売ろうと努力してくれる小売店がいなければ、投資も無駄になってしまう」。つまり、生産情報を消費者に流すだけで売上・利益が増えるわけではないということである。
トレーサビリティシステムは、生産情報を一方的に流すだけのものではなく、逆に手繰れば、正確できめ細かな消費情報を集めることも可能な仕組みである。本来は、そうして集めた情報に基づいて、消費者ニーズに対応した商品を開発したり、効果的な販促活動を実施したりすることで売上・利益が増えるのであって、システムを導入しただけでメリットがあると考える方が幻想だろう。では、トレーサビリティシステムをどう活用していけば良いのか。官民が協力して知恵を出し、消費者、生産者、流通業者それぞれにとって有益な方策が導き出されることを期待したい。
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