情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第27回 長野県塩尻市(上) 市民のインターネット利用を促進

2004/11/15 20:43

週刊BCN 2004年11月15日vol.1064掲載

 長野県の中央部に位置する塩尻市は、古くから人や物の流れが交じり合う交通の要衝だった。江戸時代には中仙道と甲州街道の合流点。鉄道網が発達した後は、篠ノ井線、中央東線と中央西線の分岐点、高速道路網が延びて中央自動車道と長野自動車道が分岐する岡谷市に隣接するなど、交通の要衝として栄えてきた。インターネット時代の今、「情報の要衝」を目指して、市民へのインターネット普及にもいち早く取り組んできた。市営のISP(インターネットサービスプロバイダ)を設けて市民のインターネット利用を促進したり、市内に総延長約100キロメートルの光ファイバー網を設置するなど、「情報化」への取り組みを着実に進めてきた。(川井直樹)

96年、市がAPを設置し通信事業者に 総延長約100キロの光ファイバー網も

■ADSL世帯カバー率は90%

 塩尻市は1996年、「塩尻インターネット」を開設。市営のアクセスポイント(AP)を有し、市民や企業に無料開放を始めた。インターネットの利用普及が目的として始まったこの事業、ダイヤルアップ接続と専用線接続に限られたサービスだが、会員数を示す発行アカウント数は1万を突破している。

 97年には長野県から山梨県を経由して東京まで高速通信回線を敷設し、各種の実験を行う「中央コリドー高速通信実験プロジェクト推進協議会」にも参加。さらに、98年には地域情報化を進めるための指針となる「塩尻市地域情報化計画」を策定し、99年、旧郵政省の「マルチメディア街中にぎわい創出事業」と「地域イントラネット基盤整備事業」の採択を受けて、塩尻市の情報化の拠点となっている「塩尻情報プラザ」と市内の光ファイバーネットワークの整備を行った。未だ「e-Japan戦略」が本格化する以前の話だ。

 「塩尻市でAPを作り、市民へインターネット普及を進めようとしたのは、それまで塩尻市にプロバイダがなかったから」とは塩尻市役所の金子春雄・企画部情報推進課情報企画係長。市が営利を目的としない通信事業者となって無料開放を始めた。「これがきっかけとなって、通信事業者もADSLや光ファイバー網の設置を進めた」という。現在、塩尻市内のADSL世帯カバー率は90%、光ファイバーも70─80%に達しているという。

 長野県は、長野市を中心とした北信地域、松本市や塩尻市を中心とした中信地域、飯田市を中心とする南信地域に大別される。中信地域のなかでも、塩尻市は「県の出先機関、特に畜産試験場や中信農業試験場など研究関連の施設が多い」(金子係長)ことも、インターネットの利用に拍車をかけたという。研究者達はパソコンの活用に慣れており、インターネットの利用も早かったとみている。


■「塩尻情報プラザ」、ITスキル向上の拠点に

 塩尻市民のITスキル向上に貢献してきたのが、塩尻駅から徒歩5分程度のところにある「塩尻情報プラザ」だ。情報体験ギャラリーやマルチメディア工房などのほか、研究開発用のギガビットネットワークの接続ポイントとなっていたり、CATVの接続ポイントの機能も持っている。

 研修室では、パソコン教室が開講されている。平日の午前中という時間帯でも、高齢者から主婦、若者まで様々な年齢層の市民がパソコン研修に訪れている。「他の自治体ではパソコン研修が廃れた、という話も聞くが、塩尻市では毎回数10人の受講者で盛況だ」と金子係長。市民がIT化に熱心なのは、インターネットインフラが整備されていることも影響しているようだ。

 諏訪市に本社があるセイコーエプソンも、地元ではおなじみの企業。塩尻市の小口利幸市長はセイコーエプソン勤務から市会議員を経て、02年に市長に就任。自治体のIT化ということに違和感はないだろう。

 今、塩尻市が画策しているのは「街中どこでもインターネット計画」だ。市内各所には防災情報ネットワークが張り巡らされている。このネットワークをベースに、公共施設、民間施設、街中の電柱など市内42か所に無線基地局を置き、「市内全域で無線LANでインターネット接続できるようにする」(金子係長)というプランだ。今年度にインフラ整備を終え、来年度に実用に供することを狙っている。

 金子係長は、「国がやろうとしているユビキタスネットワークを、塩尻市なりにいち早く実現する」と情報インフラの整備に手綱を緩めない。こうしたインフラ整備計画が実行できるのも、市民のインターネット利用が進んでいる、という実態があるからだ。
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