総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>3.ワールドトラベルシステム(上)

2004/11/15 16:18

週刊BCN 2004年11月15日vol.1064掲載

 個人で海外へ出かける旅行者のうち、インターネットで航空券を予約し購入する割合は、海外へ出かける個人旅行者全体の数%程度にとどまっている。国際航空券の卸売り販売を手がけるワールドトラベルシステム(畑中克保社長)は、この点に着目し、インターネットで国際航空券を販売する仕組みをつくった。

国際航空券をインターネットで販売

 国内の航空券の販売数のうちインターネットで予約・購入する比率は「すでに約6割に達していることに比べれば、海外へ渡航する個人旅行者がインターネットで航空券を予約・購入する比率は極端に低い」(神田貴宏・取締役営業本部長)と、国内と海外の航空券の流通形態の違いに疑問を感じたところから同社の新しいビジネスモデルは始まった。

 国際航空券も、インターネットで気軽に購入できれば、市場の活性化につながるのではないか──。

 そう考えたワールドトラベルシステムは、ソフト開発ベンダーのアジェンダ(松井文也社長)と共同で2002年7月に国際航空券の卸販売をインターネットを経由して行うシステム「スカイレップ」を立ち上げた。

 スカイレップは、ワールドトラベルシステムが取り扱う約26社の航空会社の航空券を卸販売する旅行会社向けの業務システムである。旅行会社はパソコンのウェブブラウザから顧客が求める航空券を検索し、予約・発注することができる。02年7月のサービス開始からこれまでに400社近くの旅行会社がスカイレップの利用を始めた。

 航空券や団体旅行、観光ツアーなどを販売する旅行会社は国内に約1万1000社あると言われている。そのなかで個人向けの国際航空券を販売している旅行会社は約3000社程度。国際航空券を取り扱う旅行社が限られている背景には、海外路線の場合、同じ路線でも複数の航空会社が運行していることが多く、料金を比較したり、各社ごとに異なる複雑な割引体系を把握しなければならないなど、旅行会社にとって“手間のかかる割には利幅が少ない”という点が挙げられる。

 その結果、複数の航空会社の料金を瞬時に検索でき、早期予約割引などの割引制度などをフルに活用して、最適な国際航空券を販売できる大手旅行会社に顧客が集中する傾向が強まっている。スカイレップは、こうした大手への集中を緩和し、幅広い旅行会社に海外旅行を販売してもらい、ワールドトラベルシステムの本業である国際航空券の卸販売の事業拡大に結びつける考えだ。

 これまでスカイレップの利用料は、利用者1人あたり月額1万円だったのを、今年12月から1-5利用者までは月額6000円へと値下げし、6利用者以上の場合は月額1500-5000円へと値下げする新料金体系を打ち出した。この値引きを起爆剤として、今年度(05年3月期)末までには利用社数を700社に増やし、06年度(07年3月期)末には利用社数を2400社に増やす目標を立てる。より多くの旅行会社にスカイレップを使ってもらうことで、国際航空券の販売増を推進する。

 神田取締役は、「約3000社の国際航空券を取り扱う旅行会社のうち、06年度末までに、約2000社をスカイレップの利用社として取り込み、約400社はこれまで国際航空券を取り扱っていなかった旅行会社を、新しく国際航空券を扱う旅行会社として取り込む」と、スカイレップを通じて新規販売チャネルの拡大に意欲を示す。

 だが、これだけでは、国際航空券の販売にかかる手間は大幅に軽減できたとしても、利幅は依然として低いままだ。これを改善するため、海外渡航先のホテルやレンタカー、保険など、海外旅行に必要な総合的な商材をインターネットを通じて販売する構想を進めている。

 まず、自社で立ち上げたサイトが「フリーバード」だ。あくまでも“アンテナショップ”的な位置付けのため、顧客である旅行会社と競合しない規模での展開だが、フリーバードを通じて、国際航空券以外の付加価値ある商材の販売方法の研究を進める。「顧客となる旅行会社の“手本”となるよう、海外旅行のワンストップサービスを実現する」(神田取締役)と、みずから率先して新しいビジネスモデルの開発を進める。

 ワールドトラベルシステムの独創的な動きに、インターネット通販大手の楽天が着目した。楽天グループで総合旅行サイトを運営する楽天トラベル(山田善久社長)と業務提携し、年内から年明けをめどに、楽天トラベルを通じて国際航空券のインターネット販売を始める計画を進める。楽天トラベル以外にも、有力旅行会社がワールドトラベルシステムのインターネットを使った国際航空券販売の仕組みの導入を進めている。

 ワールドトラベルシステムの今年度(05年3月期)の売上高は前年度比11.8%増の170億円を見込む。このうち国際航空券の卸売り販売は約9割を占め、その他がスカイレップの利用料などの収入が占める。国際航空券の卸売り販売のうちスカイレップなどインターネットを経由した販売は約4割、電話やファクシミリなどを使った従来型の販売が約6割を占める。来年度(06年3月期)はスカイレップを経由した航空券の販売増が見込めることから、200億円の売上高を目指す。

 次回は、共同開発元であるアジェンダのビジネスモデルを検証する。(安藤章司)
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