大遊泳時代

<大遊泳時代>第43回 暗黙知では間に合わない、1人ひとりにITエチケットと心のカギを

2004/11/08 16:18

週刊BCN 2004年11月08日vol.1063掲載

松下電器産業 役員 前川洋一郎

「パソコンは電車の網棚に置くな、膝の上に」、「自動車の後部座席は駄目、トランクの中に」と注意され、若い頃酔っ払って網棚にカバンを忘れ、駅員に頭を下げまくったこと、友人が書類を置いた車をレッカー車に持って行かれた笑えぬ事件を思い出した。

 昔から作法、ルール、用心は親、先輩、上司の背中を見て、身に付けたものだが、会社も大きくなり、口伝え、見よう見真似では間に合わず、○○週間標語ポスターを貼ったり、朝会、TQCで暗黙知を形式知に、さらに組織知に置き換える努力をしてきた。

 今回、情報セキュリティテストがあり、面倒くさいと思いつつ受けてみた。すると、ちょっとの所で○か×か△か分からない問題が多い。

 そこで「ヒント集」が配られており、それを見るとよく分かる。会社も何も100点を望んでいるのではなく、1人ひとりが問題意識を持ち、基本を身に付けるよう仕向けている。

 先日、松下電器IT教育研が事例学習型のeラーニングを開発したので見せてもらった。CD─ROMを一方的に送りつけたり、1対Nではなく、まずは実際の成功例・失敗例で課題診断をし、課題認識をしっかりし、向学意欲を持たせて、そこへ個々の弱みを適切についた教材、教育サービスを提供してやり取りする方法だという。

 伝統だ、ルールだと言っているだけでは、最近生まれたばかりのITの世界は、先行する人の暗黙知が形式知として職場に浸透しないし、組織知として行動の中に出てこない。上司も指導しようにも分かってないし、見習う先輩もいない。

 ここは就業規則だ!法律だ!という前に、うまい方法を取り入れることが、かえって職場をギスギスさせない。

 ワトソン君よ!「ハードディスクにカギはかからんのかね?」。「いやいや、カギは破られるためにあるような物ですから。何より大事なのは心のカギですよ」。
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