情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第26回 大阪府池田市(下) 他の自治体と「共創」でシステム開発
2004/11/08 20:43
週刊BCN 2004年11月08日vol.1063掲載
ターゲットを絞り込んだコンビニ的展開でサービス提供
■民間との連携による池田市方式行政による地域ポータルの先駆け的な事例となった「大阪とよのネットシステム」では、情報端末の1つとしてNTTドコモのiモード対応携帯電話を取り込んだ。選定理由は、単純に「普及率の高さ」であった。しかし、外部の民間企業にも協力を仰ぐことで、より実用的なサービスを、短期間で、しかも比較的安価に提供できる体制を構築できるメリットがある。もちろん、それは次に施策を展開するにあたっても有力な財産となる。実際、NTTドコモとの協力は、「ANSINメール」でも生かされた。
野村靖仁・総合政策部IT政策課長は「池田市(からの受注)で儲けてもらうことはできないかもしれないが、一緒になってシステムを考えることで、民間企業にもメリットを得てもらう。コンセプトがシンプルなためでもあるが、安くシステムを構築でき、池田市方式と呼ばれるようになっている」と、池田市のこれまでの施策を振り返る。
この底流に流れるのは「ユニバーサルサービスの場合、間口を広げざるを得ないため、結果的にシステムが大きくなり、利用する人が少なくなってしまうのではないか」という疑問だ。一般企業なら当然行われるマーケティングだが、行政の場合はこうした意識は必ずしも高くない。池田市ではこの点にかなり留意しているようで、一定のユーザー層に対し、シンプルなサービスの提供を続けている。
野村課長も、シンプルコンセプトの方が費用対効果は向上すると指摘する。大手スーパーが大型店を開設しようとすれば、いろんな人に来てもらうためにいろんな商品を置かねばならず、結果的に経営が厳しくなる場合がある。これに対し、池田市では「コンビニ的な手法で地域特性を見極め、売れるものを置き、そうした小規模な店舗をたくさん開設する。まだ池田市も運営がうまくできているわけではないが、対象者に良質のサービスを提供し、メニューを増やすことで、最終的に高度なサービスを提供できるのではないか」(野村課長)と考えている。
■次のターゲットは子育て支援
こうしたスタンスに立つ池田市が、次の対象として想定しているのが「子育て支援」だ。若いお母さんたちは、よく携帯電話を利用するが、そこから子育てに必要な情報を引き出せるようにする。
「昔はおばあちゃんの知恵袋というようなことがあったが、今は知恵袋として話を聞ける相手がいない。まずは子育てに関するFAQを作り、そこにアクセスすることで、キーワード検索ができる、というところから始めたい」(野村課長)としている。現在はまだデータベースの作成に着手し始めた段階だが、ごく単純なサービスは、2005年度からスタートさせたい考え。さらに、将来的な構想としては、同様のサービスに関心をもつ自治体や企業、研究機関、民間非営利活動(NPO)法人などとも連携し、オープンで使い勝手の良いものに仕上げていくことも念頭においている。
「池田市に限らず、自治体がアイデアとそれに基づくサービスを持ち寄って、より良いサービスに結びつけるという〝共創〟へ進めればいいのではないか」と野村課長は指摘する。
大きな予算を組まなくても、より良い行政サービスを提供できる独立採算型の共創モデルに発展させていくことが、1つの大きな目標になっているようだ。
すべての人に喜んでもらえる行政サービスが究極の理想であることは、論をまたない。しかし、それが困難であることは、残念ながら認めざるを得ない面もある。池田市にとって、行政サービスの充実は、池田市ファンを作るための大きな要素。そして「ITは、池田市ファンを作るための大きな切り口」(野村課長)であることも間違いない。行政には珍しくCRM(顧客情報管理)的手法を持ち込んでいることも、その現れといえるかもしれない。その一方で、ITを教条的に取り入れていくという考えは持ち合わせていないようだ。
野村課長は、「市民に喜んでもらうサービスの提供が第一義。システムありきであったり、作り手側の論理であったりは許されない」と断言する。「One・to・Oneサービスのためには、グルーピングやクラスター化でターゲットを特定し、その上で何を提供し、ゾーン展開を図るかが重要」という。さらに、個人的感覚としながらも、「特定層を対象にしたサービスを提供していくことにより、個人情報を利用しなくとも、行政サービスは可能」と指摘する。
これまで試みてきた行政サービスの提供法と今後の「共創」というシステム開発のあり方の両面から行政IT化にアプローチしている池田市の姿勢には、多くの自治体に対する様々な示唆も含まれているようだ。
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